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日本型雇用にどこまでメスが入るか。写真は2019年の春闘(写真:森田直樹/アフロ)

 終身雇用や年功序列などに象徴される、いわゆる日本型雇用が、今年の春闘で大きな転機を迎えそうだ。経団連は1月21日、日本型雇用のあり方の見直しを訴える経営労働政策特別委員会報告を公表。これに対し、日本労働組合総連合会(連合)が22日、反論した。新卒一括採用や終身雇用、年功序列を柱とする日本型雇用のあり方を巡り、労使が主張をぶつけ合う。

 経団連が公表した経営労働政策特別委員会報告は、経営側が春季労使交渉の指針とするもの。そこには、デジタル化が急速に進み、グローバル競争も激しさを増す中で、高度成長期以降に日本に定着してきた雇用のあり方に抜本的なメスを入れる必要があるとの、経営側の危機感がにじむ。労使交渉で労働組合に理解を求め、賃金制度などを改革していくことで、事業環境の変化に対応した新たな雇用モデルをつくっていきたい考えだ。

 終身雇用などの日本型雇用のあり方をめぐっては、経済界を代表する重鎮2人の2019年の発言から急速に関心が高まってきた。1人目は、経団連の中西宏明会長。2019年5月初旬に「終身雇用を前提に企業経営、事業活動を考えるのは限界」と話すと、その数日後にトヨタ自動車の豊田章男社長が日本自動車工業会の会見で「終身雇用を守っていくのは難しい局面に入ってきた」と語った。それを機に、これまで各企業が抱えていた課題が、一気に産業界、そして日本社会全体の課題として浮き彫りにされた格好だ。

 なぜ今、こうした課題が表面化してきたのか。根底にあるのは多くの大企業が直面している、バブル期の大量採用などで大きなボリュームとなっている40代後半から50代にかけてのミドル・シニア層の問題だ。日本型雇用では、20~30代では会社への貢献度合いを賃金が下回る一方、40~50代では会社への貢献度を上回る賃金が支払われる構造になっている。だが、国内の人口減少による人手不足やグローバル競争の激化などで、こうした賃金モデルが立ち行かなくなった。さらに、多くの大企業が50代半ばでの役職定年制度を導入しており、ポストから外され賃金も削減されることで、ミドル・シニア層のモチベーションが低下する状況が課題となっている。

 その一方で、現在の20~30代は、バブル世代より上のミドル・シニア層ほど日本型雇用の恩恵を受けておらず、若手からは不満の声が出るなど企業の中でひずみが生じてきている。

 経営側が終身雇用の見直しにかじを切ろうとしていることに対し、連合は22日、経団連の経営労働政策特別委員会報告に対する見解を公表。その中で、「日本の企業の99%は中小企業であり、いわゆる正社員以外で働く労働者が雇用労働者の4割を占める中、『転換期を迎えている日本型雇用システム』という文言自体がミスリーディングと言わざるを得ない」と反論した。経団連の視点は大企業の特有の問題であり、それを「日本型雇用」と一般化すべきではないという批判だ。

 連合の神津里季生会長は22日の会見で、「そもそも(経団連が指摘するような日本型)雇用システムはこの20年、確立していない」と話し、中小・零細企業の労働者や正社員以外の雇用形態で働く労働者への視点が欠けていると指摘した。

 神津会長は2019年9月の日経ビジネスのインタビューでは、大企業が抱える課題についても、「経営側から見たら、給料をたくさんもらっているのに働かないミドル・シニア層の処遇を厳しくしたくなるだろうが、それは経営としてやるべきことを怠ってきた結果」と、経営側の責任を厳しく指摘している。「労使は鏡の関係」とも言い、なぜモチベーションが下がるのかについて経営側は労働者側の声にもっと耳を傾けるべきだとも訴えている。

 神津会長はインタビューで、「私たちとしては、長期安定雇用が望ましいと考えている。ただし、それはひとつの職場で働き続けるという意味に限定するものでなく、様々なパターンがあっていい。日本経済は雇用の流動性が低いことが災いしている」と、流動性を高めることについては理解を示す。その上で、「望ましい姿は、しっかりとしたセーフティーネットがあって、流動性も高い雇用のあり方だ」ともくぎを刺している。

 春季労使交渉は、1月28日の経団連と連合の労使トップ会談から始まる。日本の企業社会のベースとなってきた日本型雇用にどこまでメスが入るか。注目の春闘になりそうだ。

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