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 田辺三菱製薬は2020年1月14日に開催した取締役会で社長交代を決議したと発表した。4月1日付で上野裕明取締役常務執行役員(61)が社長に就任し、三津家正之社長は代表権を持たない取締役となる。

次期社長に就任する上野裕明取締役常務執行役員(右)。三津家正之社長は代表権を持たない取締役となる

 田辺三菱に対しては19年11月、過半数の株式を保有する親会社の三菱ケミカルホールディングス(HD)が、株式公開買い付け(TOB)により完全子会社にすると発表。1月7日まで実施していたTOBには予定を上回る応募が得られ、今後、所定の手続きを経て上場を廃止され、三菱ケミカルHDの100%子会社となる見通しだ。このため、今後開催される定時株主総会では、さらなる取締役や代表取締役の異動も見込まれるが、1月14日の取締役会で決まったのは代表取締役社長の交代だけ。三津家社長は会見で、「それ以外のことはまだ何も決まっていない。今後の役員体制は決まってから発表する」と説明した。

 2014年に就任した三津家社長は「6年たったところで社長を交代するという考えは18年末ごろからあり、指名委員会の委員とも相談していた」と説明する。三菱ケミカルHDからのTOBの打診は19年7月下旬だったので、それ以前から社長交代を検討していたわけだ。「これから三菱ケミカルHDとの事業シナジーの検討を進めていくし、21年度からの中期経営計画の策定を20年度に開始する。そうした面でも社長交代にふさわしいタイミングだと判断した」と三津家社長は話す。

 一方、上野氏は1983年に三菱化成工業(現三菱ケミカル)に入社し、10年近く創薬研究に携わった経歴を持つ。2007年に田辺三菱が発足してからは、創薬部門、CMC部門のマネジメントを担当。独自の医薬品の創製や、それらのグローバル展開でリーダーシップを発揮してきた。

 ただ、新社長に就く上野氏は今後、様々な試練に直面することになりそうだ。

 まず当面の課題は業績悪化にいかに歯止めをかけるかだ。同社は20年度を目標とする中期経営計画で、当初は売上高5000億円、コア営業利益1000億円を目指していたが、18年11月に売上高目標を4300億円、コア営業利益を600億円に下方修正している。それでも業績悪化は続いており、19年度の売上高は2期連続減収の3760億円、コア営業利益は開示を開始した15年度以降4期連続減少の100億円の予想となっている。20年度の目標を達成するには大幅な増収増益を実現しなければならない。

新社長の上野氏には様々な課題が降りかかる

 19年度にコア営業利益が前年度の558億円から大きく減ったのは、スイスのノバルティスにライセンス供与している「ジレニア」という製品に関して仲裁手続きが進行中で、ロイヤルティーを売上収益と認識するのを停止しているため。この係争の出口もまだ見えていない。

 一方、ようやく米国での自社販売体制を整えつつあるものの、新薬メーカーとしては明らかに出遅れているグローバル展開も大きな課題となっている。その点、既に数多くの国で事業展開している三菱ケミカルHDの完全子会社となることで、「そのネットワークを活用して、地域を拡大していくチャンスができた」と上野氏は期待を口にするが、実際にグローバルに事業を拡大していけるか。

 三菱ケミカルHDとの間で事業シナジーを得られるかも課題だ。記者会見で上野氏は、「三菱ケミカルHDとの間では、既にシナジー創出委員会を立ち上げて、具体的なシナジーの議論を進めている。次期中計の中に埋め込んでいきたい」などと説明。三菱ケミカルHDの関連会社が手掛けているデバイスやデジタル、細胞医薬などと、自社の創薬のリソースや研究開発のノウハウなどを組み合わせて、「医療だけでなく、予防や予後(治療を終えた後の介護やリハビリ)も含めてどのように参入できるかを検討したい」と話した。ただ、どのような事業を創出できるかはまだ絵に描いた餅にすぎない。

 新薬の種が乏しく、パイプラインの強化にも努めなければならない状況で、三菱ケミカルHDとのシナジー創出にどれだけのリソースを振り向けるかなど、難しいかじ取りを迫られることだろう。山積する課題をどう克服できるか。次期社長の経営手腕が注目される。

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