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CES開幕前の記者発表でスマートシティー建設計画を明らかにしたトヨタの豊田社長

 「この街は誰にでも開放する。ここにいるあなたたちにも」

 トヨタ自動車の豊田章男社長は1月6日、米ラスベガスで7日から開催される世界最大のデジタル技術見本市「CES」の開幕に先立ち、人とあらゆるモノがインターネットでつながるスマートシティー「Woven City(ウーブン・シティ)」を静岡県裾野市に建設すると発表した。

 2020年末に閉鎖予定のトヨタ自動車東日本の東富士工場の跡地を利用し、21年初頭に着工する。当初は約2000人の「住民」がここで実際に生活を送り、その後、徐々に増やしていくという。他企業と連携しながら、最終的には約70万8000㎡の街を形成する予定だ。トヨタだけでなく、他の企業や組織がここで独自のプロジェクトを進めることもできる。

 トヨタにとってはコネクテッドカー(つながるクルマ)を開発する実証実験の場となるが、狙いはそれだけではない。ここではクルマや建物だけでなく、人もネットワークにつながるのが特徴だ。人の情報を認識することで、モノが人の生活を邪魔することなく、安全に暮らせるようにサポートする。人が快適に暮らせる環境をいかに街全体で生み出せるか。これがウーブン・シティの目指す姿だ。

 「トヨタだけでなく全ての人に利益をもたらす都市を創りたい」。豊田社長は壇上で、こう力を込めた。

行き場を失いつつある米テック大手

 工場閉鎖を前向きな転用で打ち消したい思いもあるかもしれない。だが、この構想はマイナスをゼロに戻すだけでなく、日本全体に経済効果をもたらす可能性を秘める。カギを握るのが、GAFAなど米テック大手が抱えている地政学的問題だ。

 米グーグルの兄弟会社がカナダのトロントで進めるスマートシティー構想「サイドウオーク」。カナダ政府とオンタリオ州、トロント市などが共同で立ち上げた都市開発構想に、分厚い冊子4冊にもなる計画を提出した。開発予定地に研究所「サイドウオーク・ラボ」まで設置し、3政府も前向きに同社の計画を受け入れていたはずだった。

 ところが、思わぬどんでん返しが起きる。「テック企業が支配するディストピア(暗黒郷)が形づくられようとしている」と、地域住民の反対運動が起きたのだ。結局、国民の目を配慮した政府は19年10月末に計画を縮小する判断を下した。

参考記事:「帝国になったGAFA 世界で民衆蜂起」

 トロントなどカナダの都市は、テック企業の開発拠点や実証実験の場を提供する「ゆりかご」になろうとしている。もともとAI(人工知能)にたけた大学を多く有する特徴を生かし、米テック企業を誘致して経済効果を地域にもたらす目算だ。

 テック企業の母国、米国は今、ドナルド・トランプ政権下で社会の分断が進んでいる。「富を占有している」とテック企業への批判の目は厳しさを増す。中国への制裁関税など世界の経済圏の分断も進み、ビジネス環境は悪化する一方だ。

 カナダはこの状況を逆手に、米テック企業の受け皿になろうとした。だが、住民の反対運動という「誤算」で、スマートシティー開発の先陣を切るというもくろみには暗雲が垂れ込め始めている。