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(写真:ロイター/アフロ)
  

 日産自動車元会長のカルロス・ゴーン被告がレバノンに逃亡してから約1週間。民間警備会社に関係する元米特殊部隊メンバーに守られてプライベートジェットで出国し、レバノン入りしたといった「脱出劇」のあらすじも見えてきた。ゴーン被告は8日にも記者会見を開き、逃亡するに至った心境などを主張するとみられる。国家主権をないがしろにしたゴーン氏の行動は正当化できるものではないとはいえ、結果的に日本の法治国家としての弱点を露呈させたことになりそうだ。

 「保釈中の被告人の逃亡が正当化される理由はない。不正な手段を使って出国することは不法出国の罪にあたる犯罪だ」。1月6日、記者会見した森雅子法相は強い口調でそう話した。法務省が管轄する出入国在留管理庁に対しては、関係省庁と連携をとった上で出国時の手続きを厳格にするように指示した。

 日本時間の2019年12月31日、「私はレバノンにいる」と声明を出したゴーン氏。24時間監視されているはずの東京の住居を抜け出したのはその2日前とされる。日本での移動経路は明らかになっていないが、出国には東京から約500キロ離れた関空を使ったとの説が有力視されている。米有力紙によると、その理由は計画に関与した協力者が「警備に穴がある」ことを確認したからだという。

 ゴーン氏の出国記録はなく、コンサート機材などを運ぶ大型の箱に身を潜め、プライベートジェットに運び込まれたというのが、脱出劇のシナリオだ。空港では通常、エックス線検査をかけられない大型の荷物は担当者が中身を調べる決まりになっている。だが、このシナリオ通りであれば、ゴーン氏はそのチェックをすり抜けた。運用がずさんだったというほかない。

 ゴーン氏は19年1月、自らの保釈条件として、GPS(全地球測位システム)などで居場所を常に確認できる装置の装着を受け入れることを表明していた。この手法は、カナダ当局が拘束した華為技術(ファーウェイ)の孟晩舟・副会長兼最高財務責任者(CFO)の保釈条件となるなど、海外で導入されている。

 しかし、裁判所はそこまでする必要がないとの判断からこの案を採用しなかったもようだ。そして、玄関にカメラを備えるという原始的な監視方法を選び「ゴーン氏が外出する時は尾行がついていた」(関係者)。結果的に「24時間監視」という手法は効力を発揮しなかった。

 世界からも注目が集まる重要容疑者に逃げられたことで、国際的に「日本の警備はザル」とみられるのは致し方ない。だが、ゴーン氏が日本の「弱点」を明らかにするのはこれが最初ではない。

 まずは緩慢な企業統治(ガバナンス)だ。日本の会社法が上場企業に求めているのは、取締役報酬の総額の開示。年額1億円以上の取締役の個別開示は有価証券報告書で行うことになっているが、配分は代表取締役に一任するのが一般的だ。19年に日産が導入したような、独立取締役による報酬委員会などの設置は義務付けられていない。いわば性善説に基づくルールで、ゴーン氏はここを突破口として暴走を加速させた。

 ゴーン氏は逮捕後、日本の司法制度でも問題点を提起した。保釈がなかなか認められない勾留制度や取り調べに弁護士が同席する決まりがないことを明らかにし、海外からの批判の目を向けさせた。ゴーン氏は脱出後の声明でも「(日本の司法制度は)差別がまん延し、人権が侵害され、国際法や条約が全くもって軽んじられていた。私は裁判から逃げたのではなく、不公平さと政治的迫害から逃れた」としている。

 森法相の言葉を借りるまでもなく、司法制度や出入国管理といった国家主権をないがしろにしたゴーン氏の行動は正当化できるものではない。ただ、「従来は通用していた」という日本独自のルールが、海外から見れば常識はずれにも、抜け穴だらけにも映ることを示したのは「ゴーン事件」の功績かもしれない。

 ゴーン氏は「ようやくメディアと自由にやりとりできる身となった」としており、今後、自らを急転落させた日本と日産への「反撃」を開始する可能性が高い。戦略眼は確かなだけに、次の「弱点」もすでに見つけているかもしれない。

  
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