「GAFA」が競合

2011年に米ニューヨークに出店した世界最大(当時)の旗艦店(AP/アフロ)
2011年に米ニューヨークに出店した世界最大(当時)の旗艦店(AP/アフロ)

 その頃から、ファストリは世界展開を加速する。2001年に海外1号店を英ロンドンに出店した後、海外展開には苦労していた。だが、再びアクセルを踏み始める。2009年にフランスのパリにグローバル旗艦店を出し、2010年には当時世界最大規模の旗艦店を中国・上海に出店。2011年には米ニューヨークに世界最大(当時)の旗艦店を出店する。

 2020年8月末時点で海外のユニクロ店舗数は1379店となり日本国内の店舗数の817店を大きく上回り、ユニクロ事業での海外売上高比率は54%と半数を超えている。2016年には、かつて遠く背中を見ていたGAPの売上高と同水準となり、現在はインディテックス、H&Mに次ぐ、世界3位のアパレル企業の座を固めている。

 その間、幾度となく逆風にさらされた。2011年には東日本大震災が発生し、「日本は20年間不振でした。その最終章が来ているのか、それともいよいよ追い詰められて、再起動していくのか。その分かれ目だと思います」(柳井氏、2011年編集長インタビュー)と危機感を露呈。2012年には尖閣諸島問題で中国国内で不買運動に遭い、「日本の外務省や政治家、あるいは一般の文化人の認識はかなり甘い」(柳井氏、2012年編集長インタビュー)と語っている。

2012年、中国での反日デモではユニクロ店舗も標的となった(写真:Newscom/アフロ)
2012年、中国での反日デモではユニクロ店舗も標的となった(写真:Newscom/アフロ)

 そして、国内では成果を厳しく問われる職場の雰囲気などから「ブラック企業批判」にもさらされる。柳井氏は、「『ブラック企業』という言葉は、旧来型の労働環境を守りたい人が作った言葉だと思っています。(中略)海外では本当に強いところしか評価されません。強くないと生き残れないんです」(柳井氏、2013年特集インタビュー)と、世界で戦っていく上で日本社会の認識の甘さにいら立ちを隠さなかった。

 だが、自らの思いと現実とのギャップから、柳井氏は経営を軌道修正する決断を下す。2014年、日経ビジネスは「ユニクロ大転換 柳井正の決断」という特集を組む。パート1万6000人を正社員化し、長らくユニクロの成長をけん引してきた「店長が主役」という方針を転換。「スタッフが主役」と位置付けて、個店の力の引き上げを試みる。

 当時のインタビューで柳井氏は「僕は1人ずつの人を説得したら変えられると思ったんですよ。でも人はやっぱり自分の過去とか経験とか自分の能力とかいったことで変えられない人もいる」と、考え方を改めた経緯を打ち明けている。

 そして2016年、ファストリは「情報製造小売業」という独自のコンセプトを打ち出す。背景には、GAFA(米国のグーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル)といった巨大IT企業の出現がある。柳井氏は、当時の編集長インタビューで次のような見方を示している。

「僕は服は情報だと思っています。(中略)情報を商品化するという、新しい業態に生まれ変わらなきゃいけない。インターネットを見たら世界中の情報が入ってきて、しかもそれは人工知能で全部分析できるという時代なので。その胴元が米アマゾン・ドット・コムと米グーグル。(中略)近い将来、大きな競合相手になるでしょう」

 もはや、競合相手はZARAやH&Mだけではない。柳井氏の視線は、かつてギャップを師と仰いで磨き続けてきたSPAのライバルたちを追い抜き、その先を見ている。

 そして2020年9月、コロナ禍の中での編集長インタビューで柳井氏は、こう語った。

「勝たないといけない競争の相手が今まではZARAとかH&Mでしたが、全産業がボーダーレスになってきている。(中略)ファーストリテイリングも、服屋なのか情報業なのか、サービス業なのか、あるいは製造業なのか、企画する会社なのか。業界の境界もないとしたら、最高のものを取ってこられる可能性がある」

2020年、ファストリは銀座に国内最大級の旗艦店を出店した(写真:北川礼生/アフロ)
2020年、ファストリは銀座に国内最大級の旗艦店を出店した(写真:北川礼生/アフロ)

 山口県の一紳士服店だったファストリは、今やGAFAをも競争相手と位置付けるグローバル企業に成長した。その強さの源流とは何か。

 1月27日(水)夜8時からのウェビナーにて、楠木氏と杉浦氏による論考に加え、日経ビジネスの記者もディスカッションに参加。視聴者からの質問にも答えながら、ファーストリテイリングの経営を「逆・タイムマシン経営論」の観点から分析していく。ぜひ、ご参加ください。

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