戦後間もない日本と同じ

鈴木修氏(2020年撮影、写真:森田直希)
鈴木修氏(2020年撮影、写真:森田直希)

インドと同じ人口大国である中国でもスズキは2つの合弁会社を持っています。2つの国を比べるとインドの評価はいかがですか。

鈴木:どっちがいいかと言われれば、インドの方がいいわな。これはスズキだけじゃなくて、日本のメーカーに共通して言えることじゃないかな。政治は共産主義、経済は自由主義というのは成り立たないでしょう。中国は「人治主義」でもあるしね。インド政府とはいろいろあったけれど、株の過半を握った途端、政府は何も言わなくなった。インドもこれだけ経済開放をしてしまうと、後戻りもないでしょう。

インドではカースト制度の名残も色濃い。人事や労務、採用などは一筋縄ではいかないでしょう。

鈴木:そんな質問をする人は本の読み過ぎなんだよ。正確に言うと、少なくともマルチの事業分野においてはない。合弁する時、「私は日本式の経営しか知らないけどそれでいいですか」と聞いて「ミスター鈴木に全部任せます」と言われたのだから、マルチの経営には関係ありません。

 会社の社風とか伝統というものは、地球上どこにいてもスズキのもの。多少やり方は違ってくるかもしれないけれど、どんな会社でも基本はやっぱり一緒じゃないかな。言い方を変えれば俺はスズキの経営しか知らないんだから、それをやるしかない。「インド風にやれ」と言われてもできませんよ。

インドは感覚的には、アジアよりむしろ欧米に近いですね。

鈴木:確かにインドは英国の植民地だったこともあって、アジアを向いていなかったからね。一番優秀な学生がどこに留学するかと言えば英国で、増えてきたのが米国。インドはアジアにおける欧州みたいなものだ。だけどここに拠点を置けば、欧州への入り口としても利用価値は高いんですよ。

 現代自動車はインドから欧州にだいぶ輸出しているよね。スズキはハンガリーに工場を持っているけれど、そこで50万、60万台も作るわけにはいかないから、残りはインドから持っていこうと考えています。

インド政府が打ち出している工業化による安定成長の道筋をつけるまでには紆余曲折(うよきょくせつ)があるのでは。

鈴木:確かに製造業の経験が少ないから、言われた通りにしか動けない面はある。でも、教えればきちんとできますよ。インドは戦後間もない頃の日本だと思えばいいんだよ。日本人だってその時に「生産の合理化」とか「改善の提案制度」とかやっていなかった。インドがモノ作りの力を発揮するようになるのはこれからでしょう。インドをなめたらいけません。

 インドの高成長は、潜在力があったところに着火したということでしょう。世界の企業が新たに市場の開拓先に困るようになって、中国とかインドといった大国に目をつけて投資を始めたという見方もできる。インドで大きく変わったのは政治です。2004年に政権が交代した時も大きな変化はなかった。確実に言えるのは、国民が安定と発展を望んでいて、着実にその方向に動いているということです。

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