「日経ビジネスLIVE」とは:
「読むだけではなく、体感する日経ビジネス」をコンセプトに、記事だけではなくオンライン/オフラインのイベントなどが連動するプロジェクト

 AI(人工知能)やサブスク……。新しい技術や急成長するビジネスが登場するたびに、世間にはバズワードが流布する。だが、持続的に成長していくには、ブレない経営の軸が必要だ。「同時代性の罠(わな)」に惑わされないための、60分の思考訓練。毎回、注目企業をケースに、一橋ビジネススクール教授の楠木建氏と社史研究家・杉浦泰氏が解説する。

 最終回となる第6回のテーマは「スズキ」。織機メーカーから始まり、オートバイ、自動車へと業容を広げ、日本の軽自動車市場をリードしたスズキ。インドでは、日本の自動車メーカーとして初めて進出した先駆者として、約5割と圧倒的なシェアを誇る。小型車では確固たる地位を確立した同社の経営を、過去に遡って分析する。

 今回はウェビナーに先立ち、1996年に日経ビジネスに掲載したリーダーの研究・スズキ「鈴木流『浪花節』で合理化貫く」を再掲載する。当時、社長だった鈴木修氏が「現場に改善の種は尽きない」と語り、自ら工場を歩いて改善の種を見つける姿や、「生き残るには1台でも多く売る」として、海外を回り人脈を広げる姿を詳述。そして、絶妙の人心掌握術と語り口で、販売店や部品メーカーから厚い信頼を寄せられていることも、具体的なエピソードとともに紹介している。

■こんな方におすすめ
+仕事の意思決定において、ブレない思考を養いたい方
+スズキの経営に関心のある方
+楠木氏、杉浦氏の著書『逆・タイムマシン経営論』を読んだ方、もしくは興味がある方
+製造業の現場に勤務している方
+企業の歴史、産業の歴史に興味がある方

>>参加を申し込む

■開催概要
テーマ:ケースで学ぶ「逆・タイムマシン経営論」
    スズキはなぜ良品廉価を守り続けられるのか(仮)
開催:2021年6月30日(水) 20:00~21:00
受講料:日経ビジネス電子版の有料会員:無料(事前登録制、先着順)

※有料会員でない方は、まず会員登録をした上で、参加をお申し込みください(月額2500円、初月無料)

20:00 オープニング
20:05 スズキの戦略と事業環境の変遷を、創業当時にまで遡りながら分析。「逆・タイムマシン経営論」の視点から、楠木氏、杉浦氏が同社の強さを分析する。
20:45 質疑応答
21:00 クロージング

■講師

楠木建(くすのき・けん)
一橋ビジネススクール教授
1992年、一橋大学大学院商学研究科博士課程修了、一橋大学商学部専任講師、同助教授、同大学イノベーション研究センター助教授、ボッコーニ大学経営大学院(イタリア・ミラノ)客員教授、一橋大学大学院国際企業戦略研究科准教授を経て、2010年から現職

杉浦泰(すぎうら・ゆたか)
社史研究家兼ウェブプログラマー
1990年生まれ、神戸大学大学院経営学研究科を修了後、みさき投資を経て、現在は社史研究家兼ウェブプログラマーとして活動。社史研究は2011年からスタートし、18年1月から長期視点をビジネスパーソンに広める活動を開始(ウェブサイト「決断社史」)。現在はウェブサイト「The社史」を運営する

■教材
+楠木建・杉浦泰著『逆・タイムマシン経営論 近過去の歴史に学ぶ経営知』(日経BP)
逆・タイムマシン経営論 第1章 飛び道具トラップ
逆・タイムマシン経営論 第2章 激動期トラップ
逆・タイムマシン経営論 第3章 遠近歪曲トラップ

■リーダーの研究-スズキ
鈴木流「浪花節」で合理化貫く
工場も海外も、円熟さ増す「人つかむ経営」
軽主体でも利益率は業界トップ

 自らが先頭に立った徹底的な合理化で、業界随一の収益力を維持。「現場に改善の種は尽きない」と現場主義を貫き、今も工場を歩く一方、「生き残るには1台でも多く売ること」と、海外を回り人脈をつくる。絶妙の人心掌握術と語り口で、販売店や部品メーカーへの求心力も強い。今の社風をどう次代へ引き継ぐかが、残された課題だ。

*「日経ビジネス」1996年9月23日号より。固有名詞や肩書、数字などは掲載当時のママ。読みやすさや時代背景を考慮し一部表現を改めた部分があります。

 7月3日(編集部注:記事掲載時の1996年)、猛烈な日差しが照りつけるインド・デリー空港に降り立った鈴木修は、5月の総選挙で新政権を樹立したゴウダ首相の表敬訪問に向かった。インドの国民車ともいえる「マルチ」を製造するのはスズキとインド政府の合弁企業であり、新政権への挨拶はスズキ社長として欠かせぬ行事の1つ。

 7日までの滞在期間中、鈴木は合弁のマルチ・ウドヨグ社の工場や販売店を精力的に歩いた。日程を終え帰国してすぐその足で中国・山東省済南市に飛ぶ。4月から試験稼働していた合弁二輪車メーカーの開所式に出席したのである。帰国して休む間もなく、3カ月間のストライキで騒動が終わったばかりのタイの二輪車工場へ、経営陣の激励に出向いた。

 今年で66歳。疲れがないといえば、嘘になる。しかし、鈴木は「そんなこと言っとられん」と語る。「ほうっておくとウチみたいな会社は、あっという間に危機に陥るわ」。社長就任のときに年商2700億円だったスズキを1兆円企業に育て上げた鈴木は、18年たった今も、徹底した現場主義で会社を引っ張る。インド、ハンガリー、タイ…。スズキのビジネスが世界中に広がり、活動半径が広がっても、鈴木の行動力は衰えるどころか、ますます磨きがかかってきた。

現場に行き「35億円もうけよう」

 1996年3月期決算は、売上高が前期比6.9%増の1兆1209億円、経常利益が同27.6%増の298億円。本業のもうけを示す売上高営業利益率は、3.02%とトヨタ自動車(2.96%)を上回り、国内の自動車メーカーで最も収益率の高い企業である。スズキの軽自動車1台の価格は、トヨタの「セルシオ」や「クラウン」などの粗利程度。当然、利幅は低い。にもかかわらず、企業全体の営業利益率がトヨタより高いのは、鈴木の率先垂範によるローコスト経営が社員一人ひとりに染み込んでいるからだ。96年3月期の売上原価率は82.7%、1人当たり生産台数は62.4台と、ともに前年(84.1%、59.9台)から改善した。

 国内に11社も自動車メーカーがある世界に類を見ない過当競争の中で、各社は、コストダウンを最優先している。しかし、同じような手法でも、鈴木の手にかかると、魔法の杖(つえ)を振ったようにみるみる成果が表れる。

 なぜか-。その差は、人間の微妙な心のヒダをとらえられるかどうかで決まる。大手の自動車メーカーともなれば、トップは合理化の目標を示して、例えば、部品購入額の0.5%を合理化しよう、と言うだけで、後は部下に任せる。しかし、鈴木は「机の上で計算したことを言っても、そんな面倒くさいこと誰もせん」と言う。現場に行って、「みんなで35億円もうけようぜ。俺も一緒に探すから」とやる。社長と同じ目線に立てた現場は、それだけで舞い上がる。

 毎年11~12月、鈴木は関連会社も含めた17の工場をすべて回り、ムダを指摘して歩く。88年以来、8年間続く「工場監査」と呼ぶスズキの恒例行事だ。各工場は10月になると、工員が一丸となって工程間のムダを見つけ、工場内を清掃する。それでも、鈴木は毎年、ずばずばと問題点を指摘する。

 「ロボットが作業している区間なのに、何で蛍光灯がいるのか」「重い部品をリフトで運ぶときは電気代がかからないよう上げ下げせず、最短ルートで運べ」-。普段は人懐っこい顔で「おはよう」「ごくろうさん」と誰彼となく従業員に声をかける鈴木も、この時は目つきが違う。鈴木は、ここで自分がどう振る舞うかにローコスト経営の神髄があると考えるからである。昨年11月の工場監査でも全工場で、前年(440件)とほぼ同じ430件ものムダを指摘した。

 「改善は、掘っても掘っても尽きないどころか、ますます成分が豊富になる金鉱のようなものだ」と鈴木は言う。「今のラインが完璧と思った瞬間、工場は死ぬ。今のラインは最低で、ムダだらけなんだと思えば、自然に改善点が見えてくる」。

 工場の現場にすれば、成果を褒めてもらいたいのが人情だろう。鈴木はもちろん、それは怠らない。しかし、そこで満足されては、次がなくなる。そのために改善点を指摘し続けるのだ。

 鈴木にしても、改善点を見つけるには努力がいる。常に工場に足を運んで現場に精通し、他社や他業種の効率的な生産にも目配りを絶やさない。対外的な仕事の多い社長にはきつい業務といえる。しかし、鈴木は「工場を見て回るのに何の苦痛もない。楽しい」と言う。問題があって、それを解決するために考える。「考えるからこそ人間の意味がある」と鈴木。工場の小さな改善だろうと、世界的な大戦略だろうと、問題解決には変わりがない。「どれだけ数をこなせるか」が、企業を成長させ、働く人間を生き生きさせる。

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