グループの設備を相互活用

 そしてこの工業園で進められているのが、グループ会社間での協力によるシナジー追求だ。日本電産(浙江)有限公司総経理で、工業園を統括する高橋優は、「内製化の拡大のために、これまで外部に出している仕事をグループ内に取り込めないか、グループ会社で知恵を出し合っている」と話す。

 例えば各社が持っている計測器のリストを共有し始めたという。これまでは、顧客から急に分析依頼があった場合、自社に必要な計測器がなければ、上海などの外部の分析機関に依頼していた。それには時間も費用もかかる。

 しかしそのリストを見て、必要な計測器を持っているグループ企業があれば、その工場で使っていない時間に分析してもらうことが可能だ。結果が出るまでの時間も短縮できるうえ、外部に現金が出ていくこともない。

 こんな例もある。これまで日本電産では工場の中で使う、ステンレス製の作業台や棚といった備品は、外から購入していた。ところが日本電産シンポが持つ工作機械を使えば、こうした備品はグループ内で作ることができる。お互いがどんな設備を持っているのか、情報共有することにより、これまで思いつかなかったような内製化が進んでいる。

 こうした情報を共有するため、各グループの現地法人トップである総経理の会合だけでなく、購買や技術、品質保証といった分科会が開かれ、より深い協力関係が構築されているという。

 現地で雇用する従業員の融通も始めた。エアコン向けファンなどを作る日本電産シバウラは夏までが繁忙期だが、日本電産が手がけるHDD用モーターは秋から忙しくなる。こうした従業員はグループ会社間で融通できる。

 これまではグループ各社は、自社の範囲で最大限のコスト削減の努力をし、競い合ってきた。売り上げが右肩上がりの期間は、どうやって増産に対応するかに必死で、グループ間の連携に目を向ける余裕はなかった。

 しかし、今回の未曽有の経済危機は、グループ間の連携という新たなコスト削減の余地を見つけ出させてくれた。日本電産の連邦経営をより進化させる絶好機となる。

「お手本・京セラ」を猛追

 日本電産の本社最上階にある永守の部屋の東向きの窓から、桂川の先に見えるもう1つの高層ビル。それが日本電産が誕生する14年前の1959年、稲盛和夫が創業した京セラの本社だ。

 同じ京都に本社を構える先輩企業の背中を永守は追いかけてきた。日本電産が本社ビルの高さを、京セラの95mを上回る100.6mにしたことも、永守が自らに「京セラ超え」を誓ってのことだ。

 「よく似とんのや」。永守はこの部屋で京セラと日本電産の売上高の推移を重ね合わせる。創業からほぼ右肩上がりに推移してきた両社。日本電産が2008年3月期に初めて7000億円を超えたのに対し、京セラが7000億円を超えたのは1997年3月期。永守が2011年3月期の目標として掲げてきた売上高1兆円の大台乗せは、京セラは2001年3月期に達成している。足元の景気後退により、売上高1兆円の達成は延期となりそうだが、これも大型買収があれば不可能な数字ではない。14年先に生まれた“お手本”との差は年々縮んでいる。

 永守が売上高1兆円にこだわる理由も、実は京セラにある。今から約20年前、取引のあった京セラの工場を訪ねた永守の目に飛び込んできたのは、目標売上高1兆円の張り紙だったという。当時、京セラの売上高は3000億円程度。日本電産はまだ300億円程度だったが、1兆円という想像を超えた数字は永守の心に深く刻まれた。

「電子部品」の枠を超える

 永守が掲げる経営理念には、稲盛と通じるものが多い。「稲盛経営12か条」には「具体的な目標を立てる」や「誰にも負けない努力をする」「経営は強い意志で決まる」などが掲げられている。京セラを手本としている理由について、永守は「稲盛さんの心の経営が浸透しているから」と話す。

 そして売上高や営業利益といった数字面で見れば、電子部品の巨人、京セラの背中は着実に近づいている。10%を超える自己資本利益率(ROE)など既に上回っている財務指標もある。

 電子部品メーカーの1つの目安と言えるのが、売上高1兆円、営業利益1000億円。京セラもITバブルの2001年3月期に瞬間的に営業利益で2000億円を超えたが、その後は売上高で1兆〜1兆3000億円、営業利益で500億〜1600億円の間で推移している。

 達成時期は多少遅れるとしても、日本電産にとって売上高1兆円、営業利益1000億円の実現はそう難しくないだろう。永守自身、その先の目標として、売上高で2020年に5兆円、2030年に10兆円という「夢よりも現実味のない大ボラ」を口にしてきた。しかしそれが実現するには、日本電産が電子部品メーカーという枠組みを超える必要がある。

 現在、日本電産が力を入れる自動車用モーター。自動車販売が回復すれば、売り上げ規模は拡大できるだろうが、HDD用モーターがけん引する2ケタの営業利益率を確保することは容易ではない。

 それを実現する唯一の方法は、エンジンではなく、モーターで動く電気自動車のデファクトスタンダード(事実上の標準)を作ることにほかならない。それが実現すれば、従来の自動車部品とは異次元の、電子部品と同じ収益構造を構築することも夢ではない。さらに事業領域は車から鉄道や船舶、そして飛行機へとつながる。

 自らが小型モーターのように、高速回転し続けることで成長してきた日本電産。1兆円企業となった時にも、これまで通りの機動力を維持して、成長し続けられるのか。永守の挑戦は終わらない。

=文中敬称略(中原 敬太)

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