自ら「3Q6S」を徹底指導

3Qとは「社員、会社、製品」の3つのクオリティーを指し、6Sとは「整理、整頓、清潔、清掃、作法、しつけ」を表す。これらを徹底することが社員の質の向上、そして企業価値の向上につながると永守は考える。従って買収先企業に対しては、永守が自らこの3Q6Sを指導することから始まる。サーボも例外ではない。
「こういうところで分かるんや」。永守はサーボの本社ビル5階から下の駐車場を指さした。空き地には特に線が引いてあるわけではないが、社員の車は前後の向きも揃(そろ)って並んでいた。工場の中を見て回る間も、床や棚にゴミが落ちていないか、使った工具が決められた位置に置かれているかなど細かくチェックしていたが、最後に確認したのは傘立てだった。きちんと留められた傘が、きれいに並べられていたのを見て、永守は満足そうに笑みを浮かべた。
こうした3Q6Sの徹底により、買収前まで2期連続で営業赤字だったサーボは、買収初年度の2008年3月期に黒字に転換しただけでなく、営業利益20億円と過去最高益を更新したのだ。わずか11カ月での再建は、これまで手がけたM&Aの中でも最短記録となった。
永守は最高益を更新した企業に対しては、その関与の頻度を減らすと決めている。サーボへも昨年7月以降は原則として月に1回しか行かない。永守が通う回数が減ると、一時的にその企業の業績は悪化するが、それも計算済みだ。次々と買収案件が舞い込んでくるのに、いつまでもその会社だけにつきっきりにはなれない。
「社員がやるべきことが何かさえ分かっていれば、多少業績が悪くなっても、しばらくすると自力で這(は)い上がってくる。そうなれば本物や」。これが永守が確立したPMI(ポスト・マージャー・インテグレーション=買収後の支援)だ。
経営危機に陥った企業の駆け込み寺――。これまで永守流M&Aはこう解説されてきた。確かにサーボだけでなく、2003〜04年に買収した日本電産サンキョー(旧三協精機製作所)も、業績悪化した後を、日本電産が引き受けた。そしてコスト削減と3Q6Sの徹底により、短期間で黒字化させた。
しかしそれらの買収は、決して場当たり的ではない。そこには永守の明確な戦略がある。
日本電産がこれまで手がけてきた買収は大きく2種類に分類できる。1つは、現在作っているモーターの品質や価格競争力を高めるための垂直方向の買収だ。コスト削減のノウハウを持つ日本電産が、さらにコスト競争力を高めるためには、コスト削減余地を拡大すればよい。
「縦」と「横」の買収戦略
縦=垂直方向の買収では、モーターの製造工程に関係する企業が対象となる。モーターを作るために外部から調達していた部品を作るメーカーから、モーターの組み立て装置や検査装置のメーカーまで、その範囲は幅広い。
最近では、2007年に買収したシンガポールのブリリアントマニュファクチャリング(現・日本電産コンポーネントテクノロジー)が該当する。HDD(ハードディスクドライブ)用のベースプレートを作っている会社だ。日本電産はここからベースプレートを購入していたが、買収しグループ内に取り込んだことで、一段と安く調達できるようになった。つまり垂直方向の買収は、モーターの利益率を確保するためのM&Aと言える。
そして日本電産のM&Aのもう1つの種類が、事業領域を拡大するための横=水平方向の買収だ。
ここ数年、日本電産の高収益を支えているのはHDD用モーターだが、既に75%前後と言われる世界シェアをこれ以上高めることは難しい。さらにHDDは、将来フラッシュメモリーへの置き換えが進むことが予想され、今後大きな成長は見込めない、いわば成熟市場になりつつある。
このため日本電産は、HDD用モーター依存体質から脱却するため、他の分野への拡大を急いでいる。家電用モーターでは、1998年には東芝子会社の芝浦製作所のモーター事業を事業分割し、共同出資で芝浦電産を設立。さらに2000年に完全子会社化した。また産業用モーターでは、2000年に安川電機からワイ イー ドライブ(現・日本電産パワーモータ)を買収した。
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