<span class="fontBold">「日経ビジネスLIVE」とは:</span><br>「読むだけではなく、体感する日経ビジネス」をコンセプトに、記事だけではなくオンライン/オフラインのイベントなどが連動するプロジェクト
「日経ビジネスLIVE」とは:
「読むだけではなく、体感する日経ビジネス」をコンセプトに、記事だけではなくオンライン/オフラインのイベントなどが連動するプロジェクト

 AI(人工知能)やサブスク……。新しい技術や急成長するビジネスが登場するたびに、世間にはバズワードが流布する。だが、持続的に成長していくには、ブレない経営の軸が必要だ。「同時代性の罠(わな)」に惑わされないための、60分の思考訓練。毎回、注目企業をケースに、一橋ビジネススクール教授の楠木建氏と社史研究家・杉浦泰氏が解説する。

 第5回のテーマは「日本電産」。創業者の永守重信会長が陣頭に立ち、数々の逆境を乗り越えて世界有数のモーターメーカーとなった同社の経営を、過去に遡って分析する。

 今回はウェビナーに先立ち、日経ビジネスの2009年01月19日号に掲載したケーススタディ「成長の研究」を再掲載する。創業から35年、M&A(合併・買収)を駆使し成長を続けてきた同社の買収戦略の特徴を、内製化率を高める「縦」と、事業を広げる「横」の2つの軸から分析。世界的な不況さえも成長の糧(かて)とする姿を描いている。

■こんな方におすすめ
+仕事の意思決定において、ブレない思考を養いたい方
+日本電産の経営に関心のある方
+楠木氏、杉浦氏の著書『逆・タイムマシン経営論』を読んだ方、もしくは興味がある方
+製造業の現場に勤務している方
+企業の歴史、産業の歴史に興味がある方

>>ウェビナーの参加を申し込む

■開催概要
テーマ:ケースで学ぶ「逆・タイムマシン経営論」
    なぜ、日本電産は逆境さえもバネにできるのか(仮)
開催:2021年5月26日(水) 20:00~21:00
受講料:日経ビジネス電子版の有料会員:無料(事前登録制、先着順)

※有料会員でない方は、まず会員登録をした上で、参加をお申し込みください(月額2500円、初月無料)

20:00 オープニング
20:05 日本電産の戦略と事業環境の変遷を、創業当時にまで遡りながら分析。「逆・タイムマシン経営論」の視点から、楠木氏、杉浦氏が同社の強さを分析する。
20:45 質疑応答
21:00 クロージング

■講師

楠木建(くすのき・けん)
一橋ビジネススクール教授
1992年、一橋大学大学院商学研究科博士課程修了、一橋大学商学部専任講師、同助教授、同大学イノベーション研究センター助教授、ボッコーニ大学経営大学院(イタリア・ミラノ)客員教授、一橋大学大学院国際企業戦略研究科准教授を経て、2010年から現職

杉浦泰(すぎうら・ゆたか)
社史研究家兼ウェブプログラマー
1990年生まれ、神戸大学大学院経営学研究科を修了後、みさき投資を経て、現在は社史研究家兼ウェブプログラマーとして活動。社史研究は2011年からスタートし、18年1月から長期視点をビジネスパーソンに広める活動を開始(ウェブサイト「決断社史」)。現在はウェブサイト「The社史」を運営する

■教材
+楠木建・杉浦泰著『逆・タイムマシン経営論 近過去の歴史に学ぶ経営知』(日経BP)
逆・タイムマシン経営論 第1章 飛び道具トラップ
逆・タイムマシン経営論 第2章 激動期トラップ
逆・タイムマシン経営論 第3章 遠近歪曲トラップ

■成長の研究
日本電産
高速回転、危機も糧に

創業から35年。M&A(合併・買収)を駆使し成長を続けてきた日本電産。
買収戦略の特徴は、内製化率を高める「縦」と、事業を広げる「横」にある。
世界同時不況をもエネルギーへと変え、モーターのように回転し続ける。

*「日経ビジネス」2009年01月19日号より。固有名詞や肩書、数字などは掲載当時のママ。読みやすさや時代背景を考慮し一部表現を改めた部分があります。

永守重信氏(日本電産会長)
永守重信氏(日本電産会長)

 比叡山の入り口、京都・八瀬の九頭竜大社。年の瀬も押し迫った昨年12月23日、日本電産社長、永守重信は自ら深緑色のBMWを運転してやってきた。ここは永守と日本電産にとって欠かせない存在になっている。

 永守が会社を設立した翌年の年末のこと。取引先に手形の不渡りが出た。

 「もうあかん、会社をつぶそう」。永守がこの神社の教祖に相談すると、「来年の節分に変わるから、それまで辛抱せよ」と告げられる。すると翌年2月11日の深夜2時、米IBMからフロッピーディスクドライブ用モーターの200万ドルの注文が舞い込んできたという。それ以来、永守は毎月この神社に通うようになった。

 この神社の参拝では、願い事を唱えながら神殿の周りを9周するのがしきたり。それは永守が自分自身への誓いを立てる時間となっている。

 「神様の前で誓ったら、必ず実行せんとあかんからな」。この日も永守は「この不況をチャンスにして突き進む」と唱えながら、いつも通り境内を歩いて回った。

 それにしてもこの逆境を一体、どうやって乗り越えるというのか。永守には売上高が仮に半分になっても赤字にしない自信はある。しかし、昨年11月以降の想像を超えるペースでの需要の減少がどこで底を打つのかはまだ見えない。これからどんな大波が押し寄せるのか。経験したことのないものに対する不安はあった。2008年の前半まで快進撃を続けてきた日本電産だが、秋以降は誤算の連続だった。

買収案件、立て続けに逃す

 まず永守流経営の真骨頂とも言うべきM&A(合併・買収)が思い通りに進まなかった。

 9月には、初めての手法に打って出た。鉄道用のモーターを手がける東洋電機製造に対する買収提案だ。買収防衛策を導入している企業に対し、相手の経営陣の合意なしに買収提案をした日本企業はこれまでない。このやり方は敵対的な買収劇へと発展しかねないだけに、永守にとっても大きな賭けだった。

 これまで数々の救済型のM&Aを成功させてきた永守。その実績が永守の経営力への評価を高めてきたが、それでは時間がかかるうえ、欲しい会社が買えないもどかしさも感じていた。

 買いたい企業をいかに早く手に入れるか。そのためには、この手法は避けては通れなかった。「和製TOB(株式公開買い付け)」と呼ぶ今回のM&Aの成否は、まさに日本電産の将来を占う試金石だった。

 しかし、永守の思いは通じない。「寝耳に水」だった東洋電機の経営陣は買収提案に猛反発した。日本電産から十分な情報が提供されていないとの主張を繰り返し、膠着状況が続く。これ以上続けても良い結果は得られないと判断した永守は、最初の提案の期限に設定していた12月15日、買収断念を決断する。

 この間に進めていたもう1つの買収案件もあった。富士電機ホールディングス(掲載当時)の子会社で産業用モーターを手がける富士電機モータだ。

 10月1日に日本電産が60%の株式を取得することなど基本合意を交わしていたが、その後の急速な事業環境の悪化によって、買収価格などの条件面で折り合わず撤回した。理由は違うが、永守はこの短期間に2件の買収を逃したわけだ。

 誤算はこれだけでは済まない。本業の収益が急速に悪化してきたからだ。12月19日、日本電産は前の期に比べ17%増の900億円としてきた2009年3月期の連結営業利益の見通しを一転、28%減の550億円に引き下げたのだ。

 10月下旬の第2四半期決算発表では、電子部品メーカーが一斉に業績予想を引き下げたのに対し、「よその会社が減益やからといって、一緒にされたらかなわん」と強気だった永守だが、わずか2カ月足らずで、自ら発言を訂正せざるを得なかった。

 今後の収益環境が不透明な中、これまでこだわり続けてきた2011年3月期の売上高1兆円という目標も修正せざるを得なくなった。

 直前の11月中旬までは「出口調査なら当確や」と自信満々だった永守だが、業績予想修正の会見では、「8合目まで登ったところで嵐がきた。このまま無理して登れば、死ぬために登るようなもの。ここはいったん空気のいいところまで下りて体制を整える」と方針転換した。

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