その通り。だが、本音を言えば、創業以後の長い間、そんな「経営力のある人材が少なかった」(永守)がゆえの窮余の策でもあった。

 時も味方した。コンピューターの世界は、特に90年代以降、価格、生産量、製品すべてが目まぐるしく変わるようになり、供給側の論理など言ってはいられなくなったのである。

 だから市場に密着している営業と、供給者である工場が対峙するこの仕組みは、市場原理と会社の論理の折り合いをつける意味でうまく機能した。一見、「無理を通して道理を引っ込める」体育会的な行動は、やがて「無理を通して道理を作る」結果になったのである。

 この種の「無理を通して道理を作る」習癖は創業時からのものだ。母校である職業訓練大学校(現・職業能力開発総合大学校)の教授で、永守の指導教官でもあった見城尚志によれば、創業間もない頃の永守は、にわかセールスマンよろしく、ガンガン営業に回ってはモーターの注文を取っていた。

 決まり文句は「他社の半分の納期でできます」。注文を取ってきては、部下に「○日でやれ」。しかし、土台が常識外れの納期だからできない。すると、モーター技術の権威でもある見城に相談を持ちかける。見城が悪戦苦闘して一晩で答えを出すと、見計らったように電話をよこし、何とか納期の帳尻を合わせる。そんなことも何度かあったという。

 だが、一見粗雑なようでいて、ここにも永守独特の洞察がある。その発想を、永守の職業訓練大学校の後輩で、日本電産副社長でもある小部博志はこう解説する。

 「メーカーとして重要なコスト、品質、納期の3要素のうち、第1に重要なのは納期。なぜなら、セットメーカーが開発している最中に試作品を持ち込んでも大抵の場合、一度でOKになることはない」

 「多少は完成度が低くても早く持ち込めば、セットメーカーは、その部品を前提に開発を進めてくれるし、技術指導もしてくれる。下手に完成度を高めようとして、試作品を持ち込むのが遅くなると、もうライバルの部品メーカーにその地位を取られてしまう」

 こすっからいようでいて、ビジネスというものの生の姿をしっかり見据えている手ごわさがある。後発の零細メーカーが競争に勝ってのし上がるのに必要な「何はなくとも」のしたたかさを十分に持っているのである。

 もう1つ、永守において巧みなのは、人への接し方かもしれない。日本電産に買収される前からの生え抜き役員で、99年5月に日本電産コパルの社長に就任した島田誠(現・副会長)も、そこに感じるものがあるという。

 コパル買収後間もない98年夏、東京都板橋区にある同社の本社工場を見学に来た永守は、工作機械から鉄の切り子が飛び散っているのを見て、雷を落とした。「こんな汚れていてどうする! 靴に傷がついたじゃないか」。

 いったん怒ってみせたが、次に訪れた際に工場がきれいになっているのを見るや、財布から厚い札束を抜き出し、「従業員のみんなで飯を食ってくれ」。少々、こってりした「今どき?」と思わせる話ではある。しかし、島田にしてみれば、怒られて「何くそ」とも思い、買収された後の従業員のつらい気持ちも分かっていただけに、努力を認めてもらえたうれしさが素直に込み上げてきたという。

 先の事業所制の仕組みといい、困った時の見城への“駆け込み”ぶりといい、よく言えば、人の善意のパワーを引き出すツボを心得ている。悪く言えば、過大な要求を突きつけて人を限界まで追い込まないと、その能力を使い切れないと考えている節がある。いずれにせよ、永守の人使いの才は際立った洞察力から成り立っている。

 だが、こうした無理が不思議なほど長続きする裏には、永守自身の刻苦勉励がある。島田も、永守の強みをそこに見る。頑張る上司には文句は言えないという率先垂範の論理である。

 また言えば、京都府向日市の、さほど豊かでもない農家の6人兄弟の末っ子に生まれ、「金持ちになりたかった」(永守)と言う割には、コンプレックスをバネに這い上がろうという屈折感のない明るさ。それが永守の刻苦勉励を暗く沈んだものに見せない秘密ともなっているのだろう。

 かつても今も、永守はとんでもない夢想家である。市場の動向、開発の方向性などの情報を仕入れ、自身の判断にも役立てるため、出張すればほとんど現地の従業員たちと食事をするが、そこでの永守の得意話の1つは、「2010年に連結売上高1兆円、従業員数十万人」である。

 実のところ永守は、創業前、まだ売上高のない時から「1億円を目指そう」と言い、1億になれば10億と、常に大風呂敷を広げてきた。そして、それをことごとく達成してきた。永守の言に人が乗せられる単純な理由はここにもあるのではないか。

五角形のバランスが取れた男

この記事は会員登録でコメントをご覧いただけます

日経ビジネス電子版有料会員になると…

特集、人気コラムなどすべてのコンテンツが読み放題

ウェビナー【日経ビジネスLIVE】にも参加し放題

日経ビジネス最新号、11年分のバックナンバーが読み放題