(写真:ロイター/アフロ)
(写真:ロイター/アフロ)

 「ハードワーキングやぁ」。永守と接して、この言葉を聞かされぬ者はあるまい。確かに永守自身、早朝から爆発的なエネルギーを発揮して働き始めるばかりでなく、1年365日、土日もすべて出勤。夜は10時頃まで働き、月の半分は国内外に出張するとも。

 技術者出身として、工場の生産性向上にも目を光らせるだけでなく、トップセールスもこなす苛烈な過密スケジュールをさばき続けている。

 加えて、「会議は土日に開く」「営業員は1カ月100件以上の顧客訪問」「会社のスローガンは『すぐやる、必ずやる、できるまでやる』」。数年前までは、新入社員の採用基準に、「早飯食い」や「便所掃除の仕方」などを入れていた…。となれば、どんな会社かと、いぶかられても不思議はない。

 ハードワークと、「100件訪問」「早飯食い」などがもたらすのは、大学の体育会的な、上意下達、根性第一、刻苦勉励のイメージである。

 だが、本質はどうも違うところにある。ハードワークや体育会的な振る舞いは手段であり、目的は別にあるようなのだ。

 例えば、事業所制と社内で呼ぶ同社の組織。73年の創業から10年ほどして始めたこの仕組みは、採算管理の単位を工場や海外現地法人に置きながら、関連する営業部隊だけを抜き出して、本社直属にしたもの。狙いは「営業はとにかく注文を取る。生産は、受注に合わせるコスト削減と技術開発を徹底する」(永守)ことだ。

 一見当たり前。しかし、実態は言葉以上に熾烈(しれつ)だ。日本電産の主力製品は、コンピューター用の小型精密モーターや、自動車、家電、産業用の中型モーター、そしてそれらの冷却用ファンモーターなど顧客企業の注文仕様品ばかり。それだけに営業部隊は、顧客に常に密着する。

 顧客に食い込んで、「今や1週間単位で変わる生産情報を聞き込み」(日本電産副社長の鳥山泰靖)、また次の新製品情報を取り込みながら、注文を取ることに必死になる。

 しかし、このデフレ下。コンピューターメーカーの生産量はくるくると変わり、新製品も売れなければ即座に生産中止になる。必然、価格は次々変動するが、営業はとにかく注文を取ることに専念することになっている。

 赤字受注は厳禁だが、厳しい値段はやはり出てくる。しかし、工場や研究開発部門は、「それでも利益の出るコスト削減や製品開発をしなければ、日本電産の成長はない」と永守は言う。

 工場にしてみればたまったものではない。利益責任は採算単位である工場にある。それでいて、厳しい価格をこなさなければならないのである。

 部材の見直し、集中購買などは当たり前。最近では、海外工場で部材の内製化率の引き上げにも本腰を入れ始めた。徹底したコスト削減の中には「海外駐在員の名刺は、出張者が日本からバッグに入れて運ぶことまでしているらしい」(同社をよく知る関係者)といった噂話まで交じる。それほど徹底するのである。

 だが、永守の側にはさらに理屈がある。「事業部制やカンパニー制で営業を取り込んだ組織にすると、事業部長の経営力が問題になる。経営力のない者が事業部長になると、少し採算性が低いというだけで『やめておけ』となりやすい。それでは、本来必要なコスト削減や将来を見越した開発などはできない」。

洞察力が生む巧みな人使い

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