「日経ビジネスLIVE」とは:
「読むだけではなく、体感する日経ビジネス」をコンセプトに、記事だけではなくオンライン/オフラインのイベントなどが連動するプロジェクト

 AIやサブスク……。新しい技術や急成長するビジネスが登場するたびに、世間にはバズワードが流布する。だが、持続的に成長していくには、ブレない経営の軸が必要だ。「同時代性の罠(わな)」に惑わされないための、60分の思考訓練。毎回、注目企業のケースについて、一橋ビジネススクール教授の楠木建氏と社史研究家・杉浦泰氏が解説する。

 第4回のテーマは「ヤマト運輸」。宅配便市場を切り開き、物流のイノベーターとして新しい生活スタイルを生み出してきた同社の経営を、過去に遡って分析する。

 今回はウェビナーに先立ち、1994年に日経ビジネスに掲載した、同社の会長だった小倉昌男氏の編集長インタビューを再掲載する。「お客様の要求するサービスレベルは高い方へどんどん変わる」。宅急便はそのニーズをとらえ、手直しを繰り返したから成長できた。ネットワークを生かし多角化に取り組むには、ピラミッド型ではない、現場で完結できる組織が必要だと語っている。

■こんな方におすすめ
+仕事の意思決定において、ブレない思考を養いたい方
+ヤマト運輸の経営に関心のある方
+楠木氏、杉浦氏の著書『逆・タイムマシン経営論』を読んだ方、もしくは興味がある方
+日ごろから、宅配便を利用している方
+企業の歴史、産業の歴史に興味がある方

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■開催概要
テーマ:ケースで学ぶ「逆・タイムマシン経営論」
    ヤマト運輸はどうして「物流イノベーター」になれたのか(仮)
開催:2021年4月27日(火) 20:00~21:00
受講料:日経ビジネス電子版の有料会員:無料(事前登録制、先着順)

※有料会員でない方は、まず会員登録をした上で、参加をお申し込みください(月額2500円、初月無料)

20:00 オープニング ※(講師紹介、講座紹介)
20:05 ヤマト運輸の戦略と事業環境の変遷を、宅配便のサービススタート時にまで遡りながら分析。「逆・タイムマシン経営論」の視点から、楠木氏、杉浦氏が同社の強さを分析する。
20:45 質疑応答
21:00 クロージング

■講師

楠木建(くすのき・けん)
一橋ビジネススクール教授
1992年、一橋大学大学院商学研究科博士課程修了、一橋大学商学部専任講師、同助教授、同大学イノベーション研究センター助教授、ボッコーニ大学経営大学院(イタリア・ミラノ)客員教授、一橋大学大学院国際企業戦略研究科准教授を経て、2010年から現職

杉浦泰(すぎうら・ゆたか)
社史研究家兼ウェブプログラマー
1990年生まれ、神戸大学大学院経営学研究科を修了後、みさき投資を経て、現在は社史研究家兼ウェブプログラマーとして活動。社史研究は2011年からスタートし、18年1月から長期視点をビジネスパーソンに広める活動を開始(ウェブサイト「決断社史」)。現在はウェブサイト「The社史」を運営する

■教材
+楠木建・杉浦泰著『逆・タイムマシン経営論 近過去の歴史に学ぶ経営知』(日経BP)
逆・タイムマシン経営論 第1章 飛び道具トラップ
逆・タイムマシン経営論 第2章 激動期トラップ
逆・タイムマシン経営論 第3章 遠近歪曲トラップ

■編集長インタビュー
小倉 昌男氏(ヤマト運輸会長)
「我慢と手直しで事業を育成」
現場完結型の組織が強さ生む

「お客様の要求するサービスレベルは高い方へどんどん変わる」。宅急便はそのニーズをとらえ、手直しを繰り返したから成長できた。ネットワークを生かし多角化に取り組むには、ピラミッド型ではない、現場で完結できる組織が必要だと語る。(聞き手は日経ビジネス編集長=当時 大谷 清)

*「日経ビジネス」1994年10月17日号より。固有名詞や肩書、数字などは掲載当時のママ。読みやすさや時代背景を考慮し一部表現を改めた部分があります。

小倉昌男氏(2001年1月撮影、写真:清水盟貴)

工夫して続けないと成長はない

宅急便は、戦後の一大ヒット商品だと思うのですが、新しい事業を生み出し、大きなビジネスとして育て上げた仕組みは何だったのですか。

小倉昌男氏(以下、小倉):宅急便を始める時に、ここまで大きくなるとは考えていなかったんです。しかし、始めるからには事業として成功させないと会社はつぶれてしまう。背水の陣という気持ちでした。その時に何がポイントなのか、何が大事なのかを見極めようと考えたんですが、結論は「コストの問題よりもサービスの質の問題」だということでした。

どういうことですか。

小倉:宅急便草創のころ、住所間違いで配達できない荷主に長距離電話をかけるべきかどうか、現場が悩んだことがありました。配達料が1個500円の荷物に、何百円もの電話代をかけていいのか、と。私は電話料金で足が出てもサービスを優先させろと言ったんです。

 とにかく宅急便はネットワーク産業で、小さなネットワークでは成り立たない。関東地方だけのネットワークというのではお客様は満足しない。全国ネットをつくると一口で言っても大変で、自力でできるかどうか心配でした。ただ、できるかどうかじゃなくて、やらなきゃ仕方ない。一度にはできないので、少しずつサービス地域を広げていきました。結局、全国ネットが完成するまで10年ぐらいかかりました。

荷物を増やすにはどんな方法をとったのですか。

小倉:そのネットワークを維持して、企業として採算を合わせるには、相当の量がないとできない。大量の荷物を扱わなければいけないのだが、大量生産する工業製品と違って、一つひとつ荷物も荷主も違う。そういう荷物を扱って、まとまった量にするという問題があった。

 そのために必要なのは、いい品質です。サービスがいいということでお客様が支持してくださる以外にない。コストをケチるといいサービスにならない。

 普通はそこで悩むのでしょうが、私の場合は、とにかく量が増えればさまざまなコスト、特に固定的な経費は自然に割安になるはずだと考えたんです。量を増やせばコストダウンにつながる。量を増やすにはサービスだ。だから迷わずサービス第一と言ってきました。

そうすると当然、当初は赤字だったわけですね。

小倉:赤字です。それは仕方ない。それを我慢しなきゃいけないわけです。サービスというのは、初めからお客様の望んでいるところがはっきり分かるわけではありませんから、やりながら手直ししなければいけない。

 どんな仕事もそうだと思うんですが、ある程度我慢してやる。それから手直しをする。この2つをやって3年とか5年かけないと、事業は成長しませんね。新しい事業の芽を出すのはわけがないけど、すぐに枯れちゃいます。

枯れたビジネスはありましたか。

小倉:当社では宅急便以外にブックサービスというのをやっています。本の流通というのは大変遅れている。遅れていると言うか、外から見ると非常に閉鎖的なシステムです。それならば新しい考え方で参入したら結構商売になるんじゃないかと思って、思い切って参入した。入ってみたらいろいろなことが分かってきたんです。

 例えば注文があって、1週間以内にお客さんの手元に本を届けるにはどうしたらいいか。わけないと思ったら、これが大変なんです。つまり、本そのものが必ずしも出版社にない。それを探してこなきゃいけない。

 当社のブックサービスは、5000万円の資本金で始めたんですが、あっと言う間に累積赤字が5000万円です。しかし、そこで我慢して同時にサービスを手直ししながらやってきた。おかげさまで、今では企業経営としては十分成り立っています。そこまで、やはり5年はかかりました。

続きを読む 2/5 お客様の要求はどんどん高くなる

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