
「読むだけではなく、体感する日経ビジネス」をコンセプトに、記事だけではなくオンライン/オフラインのイベントなどが連動するプロジェクト
一橋ビジネススクール教授の楠木建氏と社史研究家・杉浦泰氏とともに、“近過去”に遡ってブレない意思決定の視座を養うウェビナーシリーズ「ケースで学ぶ『逆・タイムマシン経営論』」。第3回「セブンイレブンはどうして『コンビニの王者』になれたのか」のウェビナーを3月24日(水)午後8時から開催した。本記事ではウェビナーでの議論の論点を提示しつつ、セブンイレブンの実質的な創業者である鈴木敏文氏の経営哲学「変化対応」がどのように実践されてきたか、そして、その限界とはどこにあったのかを考えてみたい。ウェビナーに参加された方も、そうでない方も、ぜひ、ご意見をお寄せください。

「日経ビジネスのセブンイレブンに関する過去記事を読むと、鈴木さんは本当に天才だということがよく分かる。本当の天才はカテゴリーをつくるものだが、それが『コンビニ』だ」。一橋ビジネススクールの楠木建教授はそう話す。鈴木さんとは、コンビニエンスストア・チェーン「セブンイレブン」の実質的な創業者、鈴木敏文氏のことだ。鈴木氏は、1963年に総合スーパーのイトーヨーカ堂に入社。イトーヨーカ堂創業者である伊藤雅俊氏の反対を押し切り、1974年にセブンイレブン1号店を出店。その後、セブン-イレブン・ジャパン社長、イトーヨーカ堂社長を経て、2016年にセブン&アイ・ホールディングスの会長兼CEO(最高経営責任者)を退任するときまで、コンビニ業界をけん引した。
「ミスターコンビニ」とも呼ばれた鈴木氏の経営哲学は何か。それが「変化対応」である。楠木教授はウェビナーでの議論の論点として、次の3つを挙げた。
セブンイレブンは、鈴木氏の「変化対応」という経営哲学を、どのように実践してきたのか。ポイントは、「仮説と検証」にある。「素人感覚」を常に大切にし、「顧客視点」で仮説を立て、それを商品の「単品管理」とそれを支える「POS(販売時点情報管理)」システムが集める「データ」によって検証する。それによって、販売の機会ロスを徹底的に削減していくというものだ。このサイクルを高速で回すことで、日々変化する消費者の嗜好に対応してきた。
こうした仮説と検証の高速回転を、直営店ではなくフランチャイズチェーン(FC)方式での出店や、メーカーなど外部のリソースを総動員して商品を開発する「チームMD(マーチャンダイジング)」という仕組みが支えているのも特徴だ。いずれも、自社で資産を抱え込まない、イトーヨーカ堂譲りの「持たざる経営」を突き詰めた結果ともいえる。
そして、こうした「変化対応」の考え方が、セブンイレブンの創業当時から不変ということも、面白いところだ。
鈴木氏は、日経ビジネスが最初にケーススタディーとしてセブンイレブンを取り上げた際のインタビューで、こう語っている。
「新しい商品をニーズに遅れることなく、先走り過ぎることなく店舗にそろえ、しかも安く提供しなければなりません。とにかく、変化対応業ですから、情報の良しあしは決定的な影響を及ぼします」
そして、「仮説検証型の発注は、一貫して変わらないものの1つ」と楠木教授は指摘する。仮説と検証によって「質」を追究すれば、「量」は後からついてくるという考え方とも言える。物流効率を考えて密集して店舗を出店していく「ドミナント戦略」もぶれていない。量を最初から追い求めるのであれば、店舗の全国展開はもっと早く達成できそうなものだったが、「意外とゆっくりしている」(社史研究家・杉浦泰氏)。沖縄県に出店して全国展開を完了したのは、実は2019年だ。
ただ、類いまれな「変化対応」の経営でセブンイレブンを「コンビニの王者」たらしめた鈴木氏だが、セブンイレブンの親会社だった総合スーパーのイトーヨーカ堂や、買収した百貨店のそごう・西武の業績を思うように立て直すことはできなかった。楠木教授は、「天才だからこそ、限界がある」と話す。
楠木教授は、「“変化対応”は、コンビニという業態だったからこそ大きな成果につながった。だが、スーパーや百貨店では、業態の違いなどから、鈴木氏が求めた変化対応を実践するには限界があった」と分析する。イトーヨーカ堂やそごう・西武への鈴木氏の思いは、鈴木氏がセブン&アイ・ホールディングスの会長兼CEO(最高経営責任者)退任後に実施した複数回のロングインタビューなどに基づく集中連載に詳しく掲載しているので、そちらも併せてご覧いただきたい。
(関連記事)
連載第6回:百貨店もっと商品力あるかと思った
連載第9回:ヨーカ堂は、やっぱり変わらなかった
読者の皆さんは、セブンイレブンの経営や鈴木氏の経営観から、どのような学びがあっただろうか。ぜひ、ご意見をお寄せください。
【ご意見募集 セブンイレブンの強さとは?】
「ケースで学ぶ『逆・タイムマシン経営論』」に掲載した一連のセブンイレブン関連の記事をご覧いただき、皆さんはセブンイレブンの強さや、実質的な創業者である鈴木敏文氏の経営観から、どのようなことを学びましたか。第3回のウェビナー「セブンイレブンはどうして『コンビニの王者』になれたのか」にご参加いただいた方は、ウェビナーの感想もお寄せいただけると幸いです。
いただいたコメントの中から光るご意見は、ウェビナーの映像を再配信する際に記事中でご紹介させていただきます。
一橋ビジネススクール教授の楠木建氏と社史研究家・杉浦泰氏とともに、“近過去”に遡ってブレない意思決定の視座を養うウェビナーシリーズ「ケースで学ぶ『逆・タイムマシン経営論』」。第4回は4月27日(火)夜8時から、「ヤマト運輸」をテーマに開催します。
■開催概要
テーマ:ケースで学ぶ「逆・タイムマシン経営論」
第4回 ヤマト運輸 タイトル未定
開催:2021年4月27日(火) 20:00~21:00
場所:Zoom(視聴URLは参加登録をした方に事前にお送りいたします)
受講料:日経ビジネス電子版の有料会員は無料(事前登録制、先着順)
※有料会員でない方は、まず会員登録をした上で、参加をお申し込みください(月額2500円、初月無料)
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