一時的な変化と長期的な変化 コロナ禍の消費者を取り巻く多重トレンド

 ここまで本連載で見てきたように、コロナ禍を通じて、消費者の価値観や行動は様々に変化してきました。一連のトレンドは、その性質の違いから、次のように大別されるのではないでしょうか。

(1)コロナ禍が急激に促進した一時的な傾向

 「買い物の際に重視する項目の変化」の図を見ると、コロナ禍の現在においては、「オンラインで購入できるか」はウィズコロナの状況では4番目に重視されていますが、コロナ収束後のビヨンドコロナの予想では7番目に順位を落としています。今、人々はアプリで食事のデリバリーをオーダーしたり、衣服をネットショップで買うようになったりと行動を変化させています。しかしそれは、コロナ禍で「やむを得ず」行っている消費行動にすぎないという可能性もあります。

 コロナゆえに「やむを得ず」選択されてきた商品やサービスが、収束後も引き続き消費者に選ばれるかどうか。ウィズコロナで盛り上がったビジネスが越えるべきハードルがここに存在すると考えられます。

(2)コロナをきっかけに出現し、収束後も継続が見込まれる長期的な傾向

 調査において、消費者の約半数はビヨンドコロナを迎えても節約志向を続けると答えました。近年頻発した自然災害に加え、コロナ禍を経験した日本人は、生活を根本から覆すような災禍がこの先また起こるかもしれない、という危機感を新たにしたと考えられます。新たなリスクに備えて財布のひもを締め、価格や品質を厳しく見定めようという姿勢は、この先、日本の消費者を長く支配するのではないでしょうか。

消費から社会課題へ 世界はウェルビーイングやエシカルにシフト

 コロナ収束時に消費者が見せる変化は、他の国や地域でも同様の傾向が予測されているのでしょうか。EYが行っている世界規模の消費者調査と比較してみました。

買い物の際に重視する項目(日本・グローバルの比較)
買い物の際に重視する項目(日本・グローバルの比較)
グローバルの調査結果:EY Future Consumer Index (2020年10月・世界20カ国の1万4467人を対象に調査した結果)
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 日本の消費者がコロナ収束後に重視する事柄のトップ2は、商品の価格と品質でした。しかし世界規模で見ると、消費者のこれらへの関心はそれほど高くないようです。

 日本の消費者が商品・サービスの価格や品質など、眼前の価値を重視しているのに対して、世界全体では「健康に良いかどうか」「社会や環境に配慮されているか」といった、より広い視野で長期的なメリットを重要視する消費者が多いようです。

 日本の消費者が必ずしも世界のトレンドに倣うとは言えません。しかし、より多面的な健康を追求するウェルビーイング志向、社会や環境への影響を重視するエシカル志向といった価値観は、コロナ禍の経験が改めて世界全体に喚起した大きなトレンドです。そのため、今後の消費ビジネスにおいても重要な課題であり続けるでしょう。

 コロナ以前には個人レベルではなかなか受容が進んでいなかったこうした価値に対する意識は、今後、日本でも高まっていくのではないでしょうか。

 読者の皆さんは、コロナが収束した後のビヨンドコロナにおいて、ご自身の消費行動はどのように変わっていると思いますか。ぜひ、コメント欄にご意見をお寄せください。

 2020年11月にスタートした本連載では9回にわたり、[定点観測]としてコロナの流行によって変容する消費者の姿を追いかけてきました。コロナの病禍が私たちにとって脅威であることには変わりありません。

 しかし、昨日まで常識だったことが今日には時代遅れになるようなこの劇的な経験を、私たちは未来に生かしたいものです。連載を通してこの特異な時期を読者の皆さんと共有できたことを感謝するとともに、一刻も早く、安心して消費や暮らしを楽しめるビヨンドコロナが訪れることを願ってやみません。

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この記事はシリーズ「[定点観測]“禍中”の消費者をデータで読む」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。