2016年1月に交付が開始されたマイナンバーカードの普及率が芳しくない。身分証明に使えるほか、民間や行政サービスのオンライン手続きに利用できるものの、2020年11月1日時点での普及率は21.8%。交付から4年がたったものの、国民の5人に1人が持っているにすぎない。発行にかかる手続きや時間、個人情報漏洩に対する不安、そもそも発行しなくても特に困らないという用途の狭さなど、普及が滞る理由は様々だろう。

 新型コロナウイルスは日本に根強く残る様々な慣習を一蹴し、デジタル基盤の脆弱性を露呈させた。菅義偉新政権は出遅れていた行政のデジタル化推進を担うデジタル庁を2021年秋までに創設予定。これを受け、自民党のデジタル社会推進本部は2020年11月17日、41項目からなるデジタル庁創設に向けた第1次提言をまとめた。

 シリーズ「みんなで考える日本の政策」では今回、マイナンバーに焦点を当てて取り上げる。自民党デジタル社会推進本部の事務総長を務める小林史明衆院議員に話を聞いた。

デジタル社会推進本部の第1次提言では何を最も重視したのですか?

小林史明衆院議員(以下、小林氏):デジタル庁に権限をどこまで持たせるか。ここに最も注力しました。これには理由があります。

 国としては日本に住む人にスピーディーに、かつプッシュ型で行政サービスを提供したい。しかし、国民から見た場合、行政サービスの提供主体は国であり、地方自治体でもあるわけです。ワンストップで円滑に提供したいものの、これまで実現できていませんでした。

 これまで、省庁ごとのシステムは横の連携が取れておらず、地方自治体のシステムも提出書類のフォーマットもばらばらでした。この状況をまず、なんとかしなければならない。そのためにも、強力な権限をデジタル庁に持たせる必要があります。

 ポイントはこれまで使っていたシステムの「標準化」という言葉を「共通化」という言葉に代えた点です。大した違いはないのではないかと思われるかもしれません。しかし、この言葉に対する解釈の幅が今の状況を生み出してきました。

 地方分権と中央集権という対義語があります。システムの世界ではこの2つの言葉は二項対立の関係にはありません。システムはいわば道路と同じようなインフラです。県をまたいだ先が突然、右側通行や左側通行に変わるということはありません。

 我々が本来求めていたのは共通化でしたが、総務省の旧自治省の人たちはこれまでのレガシーシステムを標準化すれば、いずれにせよ接続できるからいいではないかという理解でシステム開発が進められてきたのです。まさに言葉から生まれてしまった同床異夢と言えます。

 肌感覚ですが、国は地方自治体のシステムに着手すると反発が起きるのではないかという恐れも持っていました。ただ、様々な自治体の首長や現場の方々と話をして実際に聞こえてくるのはバックオフィスに人をはじめとするリソースを割くのは嫌だ、国でやってくれという声であることが分かりました。1次情報としての地方自治体がそう言っているのだから、動かしても大丈夫ということで今回、システムの共通化と明言しました。

 これまで地方自治体のシステムに関わってきた人たちから「5年で全部共通化するのは無理だ」という声も出ていますが、これも事実です。大変な作業が伴いますから、5年で一定のめどをつけて段階的に共通化していく必要があるでしょう。場合によっては自治体がサーバーを持つ「オンプレミス(自前で保有)」を残したほうがいいという判断も出てくるかもしれません。丁寧に見ていく必要があると思っています。

 提言では地方公共団体情報システム機構(J-LIS)について触れている部分もあります。J-LISには気の毒で不幸な歴史があります。もともとは地方自治体の業務の中でも税処理や、自治体をまたいで発生する業務を担う共通バックオフィス的な存在でした。後からマイナンバー制度が出てきてその業務を担わされたという経緯があります。

 今年、特別定額給付金10万円を国民に配布することになり、みんなが申請手続きをしました。そして、J-LISのサーバー能力が追いつかなかったわけです。検証すると、総務省が持っているシステム、内閣府が持っているシステム、J-LISが持っているシステムがばらばらで、唯一、J-LISが持っているシステムに対して国が直接ガバナンスを利かせられていないということが問題になりました。

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