読者とともに日本の政策を考える本シリーズ。前回から、「女性活躍(ジェンダーギャップ解消)」をテーマに、社会学者の上野千鶴子氏のインタビューを掲載している。前編で上野氏は、ジェンダーギャップの解消には所得の再配分強化が欠かせないと語った。今回は、組織内のポストの一定比率を女性に割り振る「クオータ制」について。上野氏はなぜ、男女が平等に社会に参画するには、クオータ制の導入が必要だと考えているのか。

上野さんは、一定の比率でポストを女性に割り当てるクオータ制の導入も主張されています。なぜ、クオータ制が必要なのでしょうか。
上野千鶴子氏(以下、上野氏):欧州などの男女平等先進国は、強制力のあるクオータ制によって男女が等しく社会で活躍できる社会を実現してきました。逆に言えば、強制力のあるクオータ制なくして男女平等の社会を実現できている国はほとんどありません。
日本では2016年に女性活躍推進法が施行されましたが、全く実効性がありません。努力目標だけで、罰則がないからです。
2018年には候補者男女均等法(正式名は「政治分野における男女共同参画の推進に関する法律」)ができましたが、この法律も結局実効性はゼロでした。直後の参院選では、参院選の前と後で女性議員の数は28人と変わらず。候補者の女性比率で50%を達成したのは共産党と社民党で、立憲民主党は45%。政権与党は自民党が15%、公明党が8%で、全くやる気がないというのが見え見えでした。
女性を登用するには、フランスのようにちゃんと罰則を付ければいいんです。女性比率50%を達成しなければ政党助成金を減額するとか、方法はいくらでもあります。
クオータ制については、多くの経営者が「我が国の風土になじまない」とおっしゃいますが、私に言わせれば全く意味不明です。「我が国の風土になじまない」と言うこと自体、何の合理的な根拠もないと自分で認めているようなものです。
企業の経営者に取材をすると、「果たして女性にげたを履かせて昇進させることが、女性にとって幸せなことなのか」という意見も耳にします。
上野氏:このような意見を聞くたびに、私は長年にわたって男性にげたを履かせてきたでしょうと言い返しますよ。男というだけで無能な人でも管理職になれた。それは本人にとっても周囲にとっても幸せなことだったのかと、いくらだって反論できます。それに男だって女だって、ポストが人を育ててきたんです。
有能な女性がしかるべき地位に就けない日本企業は、たくさんの女性を「おつぼねさま」と揶揄(やゆ)して、能力と意欲を腐らせてきたんです。先ほどのような反応は、現状を変えたくないがための言い訳にしか聞こえません。
経営者がそんなことを言っているようではだめだと。