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 シリーズ「みんなで考える日本の政策」の最初のテーマとして「少子化対策」を取り上げた前回の記事「[議論]女性活躍推進も効果なし、『少子化対策』が少子化を加速?」には、20人を超えるたくさんの読者からご意見をいただいた。この場を借りてお礼を申し上げます。

 前回、インタビューした東京大学大学院の赤川学教授は、従来の少子化対策は効果がなく、むしろ少子化を加速させる側面があると指摘。背景には、少子化対策が必要だと訴えることが、子供に掛けたい教育費や手間の期待値をさらに上昇させてしまっているという現状があり、それが、出産の前提となる結婚や、出産を妨げる要因になっていると分析している。決して望ましいことではないが、少子化を食い止めたいのであれば、究極的にはそのようなことを思わないくらい格差を広げるか、出産を義務化するくらいしかないという。

 今回も、引き続き少子化について専門家に話を聞いた。「パラサイト・シングル」や「婚活」などのキーワードで時代を鋭く切り取ってきた、中央大学の山田昌弘教授だ。

 『日本の少子化対策はなぜ失敗したのか?~結婚・出産が回避される本当の原因~』(光文社新書)などの著書を持つ、日本の少子化問題研究の第一人者でもある。山田氏も赤川氏と同様に、仕事と育児との両立支援だけでは少子化対策として不十分だと指摘する。では、どのような政策なら少子化を食い止められるのか。

(写真:PIXTA)

政府はこれまでも「少子化対策」として、仕事と育児の両立支援などに力を入れてきました。ただ、出生数は下がっていく一方で、目に見えた効果は上がっていないように感じます。これまでの少子化対策をどのように見ていますか。

山田昌弘・中央大学教授(以下、山田氏):「努力はしているけれども……」という言葉になりますよね。

 これまでの少子化対策は、仕事と子育てとの両立支援に傾きすぎていたのだと思います。結婚をすること、そして「子供を良い環境で育てないといけない」という思いに応える支援や対策が十分ではありませんでした。

 結婚している夫婦の2015年の完結出生児数は1.94人。今でも2人程度の子供をもっています。日本は結婚しないで子供を産む人は少ないので、少子化対策には結婚が前提になります。それを分かっていたにもかかわらず、結婚支援ということをしてこなかった。未婚率は大きく上昇しています。

山田昌弘
1957年東京都生まれ。東京大学文学部卒業。同大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学。現在、中央大学文学部教授。専門は家族社会学。著書に『日本の少子化対策はなぜ失敗したのか?~結婚・出産が回避される本当の原因~』(光文社新書)、『パラサイト・シングルの時代』(ちくま新書)、『結婚不要社会』(朝日新書)など。

少子化最大の原因は、若い世代での格差

結婚や養育費への不安を解消するには、どのような点に目を向ける必要があるのでしょうか。

山田氏:少子化の最大の原因は、若い層での格差だと考えています。

 日本人はリスクを徹底的に避けようとする性質があります。「世間並みの生活水準が期待できずに、子供につらい思いをさせてしまう」という理由で、リスクのある結婚や出産を避けようとするのです。こうした世間並みの生活からの転落の不安、「中流転落不安」を取り除くことがカギになります。

 また、女性であれば「自分の父親よりも高い収入が見込める人かどうか」という観点から結婚相手を選ぶ傾向にあることが明らかになっています。自分が育ったような環境を、子供にも与えたいと考えるためです。

 経済が成長して収入がどんどん上がっていく時代はそうした考えでよかった。女性にとって、自分の父親より学歴が高く、収入も増えそうな若者ばかりでしたらから。しかし、今はそうではありません。1990年代以降は、平均的に見ると、若者の親の経済状況は良くて、若者自身は将来の経済状況の見通しが悪化しているのです。収入の少ない男性は、結婚しにくくなる一方です。

 そうした前提にたったときに、正規公務員や大企業で正社員として安定的に稼いでいる人は問題ありません。ただ、今の日本で圧倒的に多いのは中小企業での勤務者や、非正規雇用者なのです。

 2019年は35~44歳、45~54歳といった子育て世代の非正規の割合は3割程度に上っています。正規職員・従業員の男性で年間収入500万円以上の人は4割以上存在しますが、非正規の男性では5%程度しかいません。

 おそらく、全員が正規雇用という時代にすることはもう無理でしょう。「正規雇用を5%増やす」「自治体で正規職員を採用する」といった、わずかばかりのインパクトでは、意味をなしません。

 多少好景気になり、最低賃金が時給1000円から1200円に上がったとしても、そうした収入が不安定な男性と結婚したい女性は多くはありません。日本人はとにかく安定志向。若い世代の将来への不安を根本的に取り除かない限り、結婚や出産をする人を増やすことは難しいでしょう。

 むしろ、「新卒一括採用をやめて、やり直しできる社会にする」「正規・非正規の格差を無くす」ということが必要です。「最低保証収入」のような制度をつくって、若い夫婦がまともに働けば、ある程度の収入を得られるという状況にすることも必要だと思います。