(写真:PIXTA)
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 安倍晋三前首相が「働き方改革実現推進室」の開所式で、「“モーレツ社員”という考え方自体が否定される日本にしていきたい」と宣言したのが2016年9月。そこから、少子化対策などの意味合いも含め、日本全体で残業時間の削減や有給休暇取得率の向上といった働き方改革が推進されてきた。

 厚生労働省の毎月勤労統計調査によると、従業員30人以上の事業所での常用労働者の年間総実労働時間は2012年以降右肩下がりを続け、同年の1808時間から2015年には1784時間、2019年には1734時間まで減少している。有給休暇取得率も同様で、2019年は56.3%と1984年以降、過去最高となった。

 “労働時間の削減”を柱とした働き方改革は確実に成果を上げている。だが、下の図を見てほしい。

「働きやすさ」は改善しているが「働きがい」は減少している
「働きやすさ」は改善しているが「働きがい」は減少している
出所:クレジット・プライシング・コーポレーション(CPC)のアナリスト、西家宏典氏が作成
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 金融コンサルティング会社クレジット・プライシング・コーポレーション(CPC)のアナリスト、西家宏典氏が分析した、東証1部・2部上場企業に勤める社員が感じている「働きがい」と「働きやすさ」の推移だ。

 西家氏らは口コミサイト「オープンワーク(旧Vorkers)」に寄せられた上場企業で働く従業員からの口コミのデータのうち、2007年以降の約2万7000件を基に単語の組み合わせから分析モデルを構築。そのモデルを使い、2007年から2020年9月までの累計約35万件のデータを分析し、「働きやすさ」と「働きがい」を「VCPCクチコミインデックス」として時系列でスコア化した。

 例えば「早く帰れる」といった表現が口コミに含まれていれば「働きやすさ」の評価が、「仕事にやりがいがある」といった表現があれば、「働きがい」の評価が高まるといった具合だ。

 オープンワークに口コミを投稿した登録者は累計で約392万人(2021年2月時点)。利用時の年齢は、10代が3%、20代が59%、30代が23%、40代が11%、50代・60代が4%となっており、データには主に20~30代の若い世代の仕事に関する意識が反映されている。

 西家氏の分析からは、若い世代では「働きやすさ」は徐々に高まっている一方、「働きがい」は低下してきたことが読み取れる。「働きがい」は近年、企業の人事施策などで注目される言葉の1つ。働きがいが低下しているとなれば、離職率の高まりや生産性の低下につながりかねない。

 そもそも、企業は働き方改革によって多様な人材が働きやすい環境を整え、これまで以上に仕事に前向きに取り組んでもらうことを意図しているはず。だが、西家氏の分析が示すように、働きやすさが向上する半面、働きがいが大きく低下しているとなれば、働き方改革そのものが働きがいを阻害する要因になっているか、もしくは、働き方改革を実践している間に、なんらかの別の要素が働きがいを阻害していることが考えられる。

 働きがいの低下には、どのような要因が考えられるのだろうか。

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