本シリーズでは、行動健康科学に基づく組織開発とストレスマネジメントの専門家である川西由美子氏を講師に招き、働き方や上司と部下の関係、チームマネジメントなどについて、読者の皆さんが抱えている悩みに答えたり、分析したりします。 今回は、企業の開発力を高めるホラクラシー組織について考えます。
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1998年に行動健康科学をベースにしたコンサルティング会社を創立。2005年からはEAP総研代表取締役として多くの企業でメンタルヘルス対策などにあたり、その後フィンランドで、世界25カ国で使われている組織活性化技法「リチーミング」の指導者資格を取得した。現在はオランダが本社の総合人材サービス会社ランスタッド(日本法人)と合併後、クライアントソリューション組織開発ディレクターを務める。臨床心理学や産業組織心理学が専門で、著書に『ココロを癒せば会社は伸びる』(ダイヤモンド社)、訳書に『産業組織心理学によるこれからのリーダーシップ』(日科技連出版社)など。ベトナムやインドネシアの企業・大学でも研修・教育活動を行っている。
こんにちは、川西由美子です。肌寒く感じる日も増えましたね。昼夜に寒暖差がありますので、体調管理には十分気をつけてくださいね。
さて、前回お伝えしたように、今回はストレスをあまり感じずにコミュニケーションや仕事ができている状態である「心理的安全性」の高い組織運営を実践している経営者にインタビューします。AI(人工知能)を使った医療システムサービスを提供するUbie(ユビー、東京・中央)の阿部吉倫・共同代表です。
阿部さんは医師です。臨床医師の仕事に従事していた頃、診療情報をパソコンで入力する手間がとても大変だったそうです。その経験から、「医師の事務作業を効率化し、医療サービスの質を向上させたい」と思い立ち、ビジネスを始めました。

Ubieは阿部さんらが2017年に設立し、タブレット端末などを利用した業務効率化サービス「AI問診ユビー」などを開発しました。同社のシステムを導入する施設は年々増え、今では全国400以上の病院などの医療機関に採用されているそうです。詳しくは後述しますが、営業部門は「ヒエラルキー型」の階層組織を構築しているのに対し、研究開発部門は「ホラクラシー型」という別の形態で運営しているのが特徴です。
医師から経営者へ。簡単な挑戦ではありませんが、行動心理学では「社会の困りごとを解消したい」というような主観的な感情があれば、人はやりたいことを実行に移しやすくなります。そんな阿部さんはどのように会社を運営しているのでしょうか。さっそく、訊(き)いてみたいと思います(ここでの「訊く」は、心理学の専門家目線で『相手の心の内を聞き出す』という意味で使っています)。

ホラクラシー組織の利点とは
川西由美子氏(以下、川西氏):医師の目線から経営者の目線に視野を広げている阿部さんへのインタビューを楽しみにしていました。
阿部吉倫・Ubie共同代表(以下、阿部氏):ありがとうございます。どうぞ、よろしくお願いします。
川西氏:御社のサービスを導入する医療機関が増え、会社組織が急激に大きくなっていますね。その際、組織心理学的には、研究開発と営業の両部門のバランスを取る必要があります。全く違う目的を持つ部署をどのように運営しているのですか?
阿部氏:はい。研究開発チームは、ビジネスを遂行するための権限が分散しています。上司・部下という上下関係がほとんどなく、私に何でも自由にものを言えるようにしています。むしろ言えなければいけません。
川西氏:なるほど。組織心理学では、そうした機能を持つ組織を「ホラクラシー型」と呼びます。明確なビジネスモデルが存在し、意思決定権が各個人やチームに分散されている組織を示します。
この組織では多様性のある意見が出たり、仕事へのモチベーションが高くなったりするのに加え、人間関係のストレスが減って社員が本来の業務に全力投入できるというメリットがあります。一方、強いリーダーが存在しないため、統括やコントロールという概念がなく、メンバー間の信頼によって仕事を任せるような工夫が欠かせません。
ホラクラシー組織の維持には2つの視点が必要です。
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