本シリーズでは、行動健康科学に基づく組織開発とストレスマネジメントの専門家である川西由美子氏を講師に招き、働き方や上司と部下の関係、チームマネジメントなどについて、読者の皆さんが抱えている悩みに答えていきます。
今回は、コロナ禍で健康的な食生活を送るための工夫です。ぜひ、皆さんも日々、工夫されていることがあれば教えてください。
■川西先生に相談したい内容を募集します
川西先生に悩みを相談したい方は、「お悩みアンケート」にお答えください。相談内容を編集部で確認・選考の上、編集部が皆さんのお悩みを川西先生にお届けします。
>>「お悩みアンケート」に回答する
こんにちは、川西由美子です。
コロナ禍で今年は“おうち花見”が推奨され、花屋さんには例年になくつぼみの付いた桜の枝が多く売られ、店頭で買っていく方々の姿に心を癒やされました。
川西由美子(かわにし・ゆみこ)
1998年に行動健康科学をベースにしたコンサルティング会社を創立。2005年からはEAP総研代表取締役として多くの企業でメンタルヘルス対策などにあたり、その後フィンランドで、世界25カ国で使われている組織活性化技法「リチーミング」の指導者資格を取得した。現在はオランダが本社の総合人材サービス会社ランスタッド(日本法人)にてクライアントソリューション組織開発ディレクターを務める。臨床心理学や産業組織心理学が専門で、著書に『ココロを癒せば会社は伸びる』(ダイヤモンド社)、訳書に『産業組織心理学によるこれからのリーダーシップ』(日科技連出版社)など。ベトナムやインドネシアの企業・大学でも研修・教育活動を行っている。
前回「自分の健康のメカニズム」についてお話をしたところ、皆様から大変ポジティブな意見を伺うことができました。読んでいただいた方々、ありがとうございます。
コロナ禍で健康に対する意識が高まっているなぁと改めて感じています。今はアフターコロナを元気に生き抜くための行動を見つめ直す好機だと思います。
今回は、健康を維持するための基本行為である「食べること」について考えてみたいと思います。
「忙し過ぎておなかがすかない」
「自分が今何を食べたいのかが分からない」
「忙しくて食べる時間がなく、夜中になっておなかがすいていることに気が付いたけど、自宅に食べ物がなくてそのまま寝た」
そんな経験をした人も多いのではないでしょうか。こうした状態が3日間続いた人は要注意です。
コロナ禍で人との交流が少なくなり、自宅にこもって仕事をして「体調不良になった」と話す人も多いですが、最近はそのような方に「炭水化物を取っていますか?」と聞くようにしています。
炭水化物不足で脳が省エネモードに
炭水化物が不足することで脳が省エネルギーモードになり、「集中力が上がらない」「だるい」「眠い」などの反応が出ることがあります。
よくダイエットで炭水化物を抜くことを推奨する人もいますが、私は逆に脳の健康のためにしっかり取っていただきたい栄養素だと思っています。
少しここで、脳とエネルギーの関係についてお話ししますね。
脳の重さは全体重の約2%にすぎないのに、体全体の消費エネルギーの20~25%を使っているとされています。脳の主要なエネルギーは糖質です(炭水化物は糖質です)。
脳がエネルギー不足になると、体の自己防衛反応が働き、できるだけエネルギーを使わないようになります。先ほど述べた「省エネモード」になるのです。寝ているときが一番エネルギーを消費しないので、昼間うとうとしたり、集中するのに使うエネルギーがカットされて効率が上がらなかったり、などの症状が出てきます。
意欲、記憶、感情、集中など「心の安定」のみにフォーカスして対処しても、良くならない場合が多いのですが、脳のエネルギーレベルを満たすと、こうした症状が回復することがあります。要するに、心の状態(意欲など)をアップさせる方法の一つは、脳に糖質を送ることなのです。
多くの糖質は体内でブドウ糖に分解されます。ブドウ糖は血液によって脳に運ばれ、1時間でブドウ糖は消費されると言われています。血液中のブドウ糖が減ると、自動的に筋肉や肝臓にたまっているグリコーゲン(糖原質)を分解してブドウ糖に変え、脳や全身に送られます。炭水化物はグリコーゲンとなって筋肉や肝臓に貯蔵される糖質になるので、とても大切な栄養素です。
人間の機能を十分に発揮するための1日に必要なブドウ糖は約150g。それなのに1回の食事で肝臓にためられるブドウ糖は約60gといわれています。ブドウ糖の濃度を一定に保ち、脳へ十分にエネルギーを運ぶためには1日3食、炭水化物を定期的に取らないといけません。
朝食を食べない若者が多い
厚生労働省が2020年12月に出した「令和元年国民健康・栄養調査」によると、朝食を欠食した人が男性で14.3%、女性で10.2%でした。男女別・年代別で見ますと、欠食率が一番高いのが、40代男性で28.5%、次に20代男性(27.9%)、30代男性(27.1%)、30代女性(22.4%)と続きます。ここでいう欠食は、「何も食べない」だけではなく、「菓子・果物などのみ」「錠剤などのみ」も含んでいます。
そこで、欠食の中で「何も食べない」人の割合を男女別・年代別で見てみます。すると、20代男性が68%でトップ、30代男性と30代女性がそれぞれ同率で49%です。若い人が朝食を抜いている割合が高いのが分かります。働き盛りの若者なのに、仕事で力を発揮するための脳が栄養不足で機能不全になることは大きな問題ですよね。
意識的に「食べる」気持ちが重要に
脳が十分に機能するには炭水化物を取ることが大事ということを述べてきました。これからは、意識的に「食べよう」という気持ちを自分から出してほしいと思います。
食べたいという気持ちを出すには、ドーパミンという脳の伝達物質を活性化させることが重要です。ドーパミンは「心地よい」と思ったときに活性化する物質で、例えば、おなかが減っていてようやく食べ物を口にしたときに幸せを感じたり、すごくおいしい食べ物を食べて幸せを感じたりするときに、ドーパミンが出ます。ドーパミンが活性化しているときは、現在の状況も好ましく考えるようになっているので、家庭や行きつけのレストラン、一緒に食事をする人と接するだけでも心が前向きになります。
脳はその快楽をもう一度経験しようとする機能があります。「リワードシステム」とも呼ばれるもので、そこが“作動”すると、おいしいものをより求めるようになります。
焼肉屋さんの前を通ったとき、たこ焼き屋さんの前に立ったときを想像したら分かりやすいかもしれません。においにつられ、食欲が増進されるときがありませんか? そこにはリワードシステムが働いているのです。
「食べること=生きること」ですので、食べるのを飽きないような仕組みが人間の脳に備わっているのです。
でも、こうした機能を活性化させるのも栄養を十分取っていなければ働きません。この伝達物質のスピードを決めるのは、ミエリン(髄鞘)と呼ばれる部位で、主要成分は脂肪。次にたんぱく質です。ビタミンB群は神経伝達物質の合成に深く関わっていて、ビタミンB6が不足すると、うつ病の原因になったり、睡眠障害の原因になったりします。ですから、炭水化物、脂肪、たんぱく質、ビタミンを取るバランスの良い食事をすることが前提です。
繰り返しになってしまいますが、まずは食べて体を栄養で満たす状態にしましょう。そして、食べることを意識することで、体が本来持っている機能が働き、食べることを強く求めるようになります。そんな食の好循環が生まれるのです。
「食べる意欲が湧かない」など、食べることから始まる好循環がうまくいかない場合はどうすればいいでしょうか。それにはあらゆる感覚器を刺激して自分をその気にさせることが大切です。おいしいにおいのするデパートの地下階の食品売り場へ行ってみたり、食堂街の路地で嗅覚を刺激したりすれば、昔食べたときの記憶に自動的にアクセスしますから、脳のリワードシステムが働いて、それを欲するようになったりもします。
料理のおいしそうな写真や、レストランの心地よい雰囲気を見るためにぐるなびなどのグルメサイトの情報を見れば、「あっ、これ食べたい」という気持ちを刺激してくれます。グルメサイトは、プロの写真家やライターがお店の思いを画面に映し出し、おいしさを伝えるために昼夜作り込んでいますので、とても効果的に食べたい気持ちが刺激されます。友人がシェアしている料理の写真を見て、素材や味について会話することも一つの手ですね。
ぜひ、やってみてくださいね。
若い人が「気持ちが前向きになれない」と私に相談に来るときは、8割ぐらいが食事をしっかり取っていないパターンです。気持ちが落ち込むから食べないのか、食べないから落ち込むのか、もちろんさまざまですが、私はまずこう言います。
「話はあとよ。まずはそのクッキーを食べてね」
新しい期がスタートした4月、元気に動くためには脳の健康管理は大切です。脳のエネルギー量を気にしてみてくださいね。
【ご意見、相談を募集します】
今回は、4月からの新しい生活でストレスをため込まず「健康」に日々の生活を送るための工夫です。ぜひ、皆さんも日々、工夫されていることがあれば教えてください。
また、川西先生に悩みを相談したい方は、「お悩みアンケート」にお答えください。相談内容を編集部で確認・選考の上、編集部が皆さんのお悩みを川西先生にお届けします。
>>「お悩みアンケート」に回答する
この記事は会員登録でコメントをご覧いただけます
残り3605文字 / 全文3644文字
日経ビジネス電子版有料会員になると…
人気コラムなどすべてのコンテンツが読み放題
オリジナル動画が見放題、ウェビナー参加し放題
日経ビジネス最新号、9年分のバックナンバーが読み放題
この記事はシリーズ「川西由美子の相談室「それでいいのよ」」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。