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この時期は、外と室内との温度差が大きく、体に負担がかかります。スープや温かい飲み物で体をリラックスさせてくださいね。
前回に続き、今回も健康経営を加速させるワーケーションがテーマです。社員にワーケーションをすることを勧めているインターネット接続サービス大手ビッグローブ社長の有泉健さんと考えます。

1998年に行動健康科学をベースにしたコンサルティング会社を創立。2005年からはEAP総研代表取締役として多くの企業でメンタルヘルス対策などにあたり、その後フィンランドで、世界25カ国で使われている組織活性化技法「リチーミング」の指導者資格を取得した。現在はオランダが本社の総合人材サービス会社ランスタッド(日本法人)と合併後、クライアントソリューション組織開発ディレクターを務める。臨床心理学や産業組織心理学が専門で、著書に『ココロを癒せば会社は伸びる』(ダイヤモンド社)、訳書に『産業組織心理学によるこれからのリーダーシップ』(日科技連出版社)など。ベトナムやインドネシアの企業・大学でも研修・教育活動を行っている。
まず、おさらいを少ししてからインタビューの内容をお伝えします。
ワーケーションとは、work (働く)と、vacation (休暇)を組み合わせた造語で、インターネットが急速に普及した2000年代から米国で使われ始めた働き方の概念です。1980年代、ロバート・ローゼン博士が提唱した「従業員の健康を維持することが高収益な組織をつくる」という「ヘルシーカンパニー」の概念が米国内で浸透し、ワーケーションも受け入れられました。
ワーケーションといってもさまざまな形態があるのですが、日本では、観光や帰省などの休暇先で過ごす時間の一部を、リモートワークなどの仕事に充てることを主に示しています。同僚への遠慮などから、有休の取得や長期休暇を取りづらい環境にある日本企業では、「ワーケーションなんて夢のまた夢」と見られていました。しかし、コロナ禍によるリモートワークが普及した今、ワーケーションを積極的に導入しようという動きが出始めています。
では早速、有泉さんにお話を聞いてみます。ビッグローブは、新型コロナ禍で出社前提の勤務体系を見直しており、ワーケーションをするように推奨しています。また、その効果を調べる実証実験を行っており、「ワーケーションで三方よし」をキャッチフレーズに「社員」「企業」「温泉宿・温泉地」の3者がそれぞれ幸せになる仕組みづくりに取り組んでいます。なぜワーケーションに注目するのか。その理由を詳しく聞きたいと思います。

1984年電気通信大学大学院修了、国際電信電話(現KDDI)入社。16年同社執行役員。17年から現職。山梨県出身。(写真:吉成 大輔)
社員、企業、温泉地の三方が喜ぶ
川西由美子氏(以下、川西氏):有泉さんが提唱しているワーケーションはどのようなスタイルなのでしょうか。そこに至った背景を教えてください。
有泉健・ビッグローブ社長(以下、有泉氏):推奨しているのは温泉地のチームでのワーケーションです。日本では古来、「湯治」という概念がありますよね。集中して何かを考えるときやチームワークを築く際に合宿型のグループワークを実施してきました。仕事の疲れも癒やしてほしいとの思いから、実施場所として温泉宿を選ぶ企業も多かったと思います。
私たちは、ビッグローブのお客様からお薦めしたい温泉地、温泉宿をネットで投票していただき、東日本地区と西日本地区に分けて得票数から大相撲のように横綱以下の番付を決めて発表し、表彰する「みんなで選ぶ温泉大賞」を2008年度から続けています。
これは、お客様と温泉地、温泉宿をつなぐ「三方よし」の企画です。しかし、新型コロナ禍で人々の行動や生活様式が変わり、温泉地もダメージを受けています。新型コロナ時代の新常態に対応すべく、我々も新たな温泉地活性化策によってこれからの時代に合った企画を考えたのです。
ワーケーションに着目したもう一つの背景が、テレワークに伴い社員間で発生しているストレスでした。社内で働き方に関する意識調査(複数回答)をしました。在宅勤務が定着化したことによって「通勤へのストレスがなくなり、育児や介護など家族と過ごす時間を大事にできた」「自分のペースで仕事できてストレスが減った」など良い効果が出ている意見があった一方、「コミュニケーションが取りにくくなった」と回答した社員が64%に上りました。
非対面での仕事が多くなったことで、「コミュニケーションを取りづらく意図がうまく伝わらない」「管理工数が増えて仕事がはかどらない」「異動した社員、新入社員の不安が増している」などといった、これまでなかったストレスをためている人が増えていることが分かりました。そこを会社が積極的にケアすることが必要であり、社員のストレス緩和にチームでのワーケーションが有効ではないかと考えました。