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「No Pain, No Gain」の気持ちが大切

 前回は「マーケティングを武器にする」というテーマで、幸福について皆さんと考えました。お金と関連した幸福に作用する要素として「知足」「利他」「autonomy(自律)」という3要件を理解し、これらはお金と関係しない局面でも幸福に関連するということを考えました。

 そしてお題として「憧れの海外企業からの誘い、彼女を置いて日本を飛び出す?」について皆さんと議論しました。筆者はH社と同じく米シリコンバレーに本社を置く海外企業の日本法人に勤務をしており、Gさんと同様に会社の自由な雰囲気、年齢や人種を問わず能力に合わせて与えられる裁量、オープンな雰囲気に魅了されているため、断然新設されたラボの責任者の道にチャレンジすることをお勧めしたいところなのです。しかし、現職の若いエンジニアが成長途上であること、何よりも愛するパートナーの都合を考えると、なかなか難しい意思決定です。

 私なりの考えとしては、GさんはH社のラボの責任者に就任すべきです。ただし、日本からのリモートワークという条件付きです。これにより、まずはパートナーとご両親のご要望に沿うことができます。

 H社との交渉についてですが、まずH社はGさんを高く評価しているため、Gさんの条件を検討してくれる余地はありそうです。もっとも、コロナ禍で世界中の企業でリモートワークが推奨されていることに加え、そもそもグローバル企業ではウェブ会議は当たり前です。

 出張も頻繁にあるため、ベースとなる勤務地がシリコンバレーではないことが大きなネガティブ要素になるとは思えません。ただし、チームメンバーの普段の勤務状態が見えないからといって、「マイクロマネジメント」と呼ばれる管理スタイルはすべきではありません。サイコロジカル・セーフティー(心理的安全性)を確保したチーム運営を心がけましょう。

 実は筆者も、自分自身は日本法人に勤務しながらも上司が海外オフィスという経験があります。2年間ほど、日本とオーストラリアの合同チームに所属し、上司はオーストラリアに勤務するアイルランド人女性という時期がありました。会議は全てウェブ会議で行い、必要に応じてオーストラリアへ出張しましたし、シンガポールでアジアパシフィックチームとともに集まることもありました。上司も日本には頻繁に来ていました。確かに同じオフィスにいて常に対面で話すのとウェブ会議とでは印象は異なりますが、仕事を進める上で支障と言えるものはさほど感じていませんでした。

 最後に、今の会社への対応です。筆者の好きなことわざに「No pain, no gain」があります。日本語訳すると「労なくして得るものなし」といった意味になりますが、「労」を「挑戦に伴う乗り越えるべき苦しみや不安」と解釈すると、転職することは人材を失う会社にも転職する個人にもお互いに新たな挑戦であり、苦しみや不安を伴うものでもあります。

 Gさんのこのケースでは会社にとって、優秀なGさんを失うことが「pain」です。Gさんにとっては今自分が率いているチームの若いプログラマーがまだ成長途上であること、やりかけのプロジェクトが2つほどあることがそうでしょう。

 ただしポジティブに捉えれば、会社にとっては若いプログラマーがGさんなしでも成長することが期待できるし、やりかけのプロジェクトが残ることは次を担う方がチャンスを得るということでもあります。当初は混乱することが想像できますが、中長期的には組織全体の強化「gain」につながり、会社のさらなる成長の基盤となる可能性があります。

 もしH社にリモートワークを認めてもらえなかった場合でも、私なら数年後に日本法人の設立を視野に交渉し、例えば2年間の期間限定でシリコンバレーのH社に単身で赴任します。その期間はパートナーとは遠距離になりますが、日本法人設立のための準備で頻繁に日米を行き来しながら会うこともできます。

 さらにその交渉も認められなかった場合は、パートナーとともにシリコンバレーに行けるよう準備します。パートナーはご両親の事業の主要メンバーなので日本を離れられないということなので、それが物理的に日本に居ないとできないことであれば、代理となる方の採用を手伝います。

 もしパートナーの仕事が米国からリモートでできる場合や、パートナーのご両親の事業が米国に進出できそうな場合は、米国からご両親の仕事を手伝うこともできるかもしれません。

 このように、私であれば、「利他」か「autonomy」の二者択一ではなく、お互いの均衡を心がけながらも、最終的には「autonomy」に寄った選択をしていきます。自分の目指すべき道や大切にしたいものを将来にわたって見据えた上で、必要に応じて労(pain)を惜しまないことが、新たな道を切り開き新しい自分と出会えるチャンスをつかむ(gain)ことができるのです。

 さて、いよいよ最後のお題に移りましょう。