自分が望むキャリアを主体的に築いていくにはどうしたらいいのかを、「マーケティング」の観点から学ぶシリーズ「“働く”をマーケティングする」。いよいよ最終回。前回に引き続き、第4章「マーケティングを武器にする」スキルを学びます。

■これまでの学び

第1章 あなたをブランド化する
望まない仕事の責任者に抜てき、このまま流されて大丈夫?
先行き不透明なキャリアアップチケット、つかむべきか?

第2章 相手の気持ちを読む
買いそうで買ってくれない見込み客の気持ちをどう読むか?
寝耳に水の契約終了、営業責任者のあなたはどうする?

第3章 ポジショニング
育休から復帰後、「好きだけどきつい」仕事に戻るべきか?
転職先の朝礼に意味を見いだせない、あなたならどうする?

第4章 マーケティングを武器にする
憧れの海外企業からの誘い、彼女を置いて日本を飛び出す?
もし首相になったら、日本を世界にどうマーケティングする?

(写真:PIXTA)
(写真:PIXTA)

 皆さん、こんにちは。一般社団法人マーケターキャリア協会(MCA)事務局長の中村全信です。「“働く”をマーケティングする」シリーズは全8回にわたって皆さんと様々な議論をしてきましたが、今回はいよいよ最終回。テーマは前回に続き「マーケティングを武器にする」です。

中村 全信
一般社団法マーケターキャリア協会 事務局長
2002年に青山学院大学卒業後、宣伝会議入社。2011年Google入社以降、YouTubeの広告プロダクト担当として、TrueView動画広告、ブランド効果測定、バンパー広告などの日本導入を担当。2016年からはマーケティング部門で企業のYouTube活用を支援している。2019年3月、個人の活動として一般社団法人マーケターキャリア協会(MCA)を設立し、事務局長に就任。「マーケターの価値を明らかにする」をビジョンに活動を開始し、2020年8月時点で会員1000人を突破。

 これまで議論してきた「あなたをブランド化する」「相手の気持ちを読む」「ポジショニング」そして「マーケティングを武器にする」は全て、身近な事象を題材にして「自分ならどうするか?」と自問自答することで、マーケターが普段実践している課題に対する解決策となる考え方を論じてきました。「え、これがマーケティングの考え方なの? 私のいつもの考え方と同じだよ」という声も聞こえてきそうです。

 はい。実は、そうなんです。

 「マーケティング」「マーケター」という言葉を見聞きすると、外国から来た横文字的なニュアンスで何だか難しそうなイメージがあるかもしれません。しかし、人間理解をベースとしたマーケティングの考え方は、職種としてのマーケターだけが持つ特殊能力ではなく、仕事をする上で、いやそれ以上に生きていく上で誰しもが持つべき「人生を幸せに過ごすための思考法」なのです。

 「経営とは、マーケティングそのもの。日本経済活性化の鍵となる」

 かくいう筆者は、実際に肩書に「マーケティング」が付いて働いているのはわずか5年程度です。MCAを設立した経緯を含め、ここで少しだけ私自身のお話をさせてください。

マーケティングは経営そのものだ

 広告好きだった私は、2002年に青山学院大学を卒業後、広告界向けの専門誌などを発行する出版社に入社しました。様々なことを学んだ中で、今に最もつながっていることの1つが、広告を含むより広い概念であるマーケティングへと私の興味を広げてくれたことです。

 マーケティングの「4P」をご存じの方は多いかと思います。米マーケティング学者のエドモンド・ジェローム・マッカーシーが1960年に提唱したもので、Consumer(消費者)およびMarket(市場)を軸に捉え、「Product(製品)」「Price(価格)」「Place(流通)」「Promotion(プロモーション)」の4つを戦略的に構築することを推奨したものです。広告はこの4PのうちのPromotionの一部と言われていますが、ビジネスを成功に導くにはマーケティング全体を理解する必要があることを学んだのです。

 私が影響を受けたビジネスパーソンであるネスレ日本の前社長、高岡浩三氏は、2014年のインタビューで、以下のように述べています。

「経営は、英語で『マネジメント』と訳されます。(中略)しかし、私はそれに疑問を持っています。
 消費者に付加価値を提供するからこそ、営利活動が成立します。その付加価値をつくるすべてのプロセスがマーケティングだと私は理解しています。そうであるならば、営業やマーケティング部門だけの話ではなく、製造現場、サプライチェーン、人事、ファイナンスなど、経営活動のすべてに顧客への付加価値を生み出すプロセスがなければいけません。だからこそ経営はマネジメントではなく、マーケティングと言い換えるべきなのです」

(出所:「経営とは、マーケティングそのものである 『マーケティング後進国』日本に必要なこと」 ハーバード・ビジネス・レビュー 2014年9月19日)

 この記事を読んだのは、現在勤務している企業に転職して3年が経過したところでしたが、まさにその通りだと感激したとともに、前職時代から持っていたある思いが再び去来しました。

 「優れた広告が紹介されるとき、広告会社のクリエーターなどは注目されるのに、広告主企業の担当者はあまり表に出ない。つまり、マーケターがあまり重要視されていないのではないか?」

 「経営とはマーケティングそのものなのに、企業は頻繁に人事異動を行うため、マーケティング部門に経験豊富な人材が不足しているのではないか?」

 テクノロジーの進化によって生活者の行動が多様化し、コミュニケーション環境は複雑化しています。市場を創造し、ターゲットの認知変容・態度変容・行動変容に影響を及ぼし得る全てを行うマーケターこそが、高度な能力を持つ専門職として認知され、さらなる経済成長を目指す日本の社会において必要不可欠な人材であるべきだと考えたのです。

 また、マーケティングを学ぶ機会は数多く存在していても、マーケターとしてのキャリアについて議論する場は決して多くはありませんでした。

 マーケターのビジネス貢献度を可視化したり、プロフェッショナルマーケターのキャリア構築を支援したりする。そしてビジネスパーソンや学生にマーケティング思考を知ってほしい。様々なマーケターとの議論を通じて湧き出たそんな思いから、「マーケターの価値を明らかにする」をビジョンに、2019年にMCAを設立しました。

 設立間もない団体ですが会員は1000人を超え、マーケティングで経営を改革したいと願う企業や、マーケターとして活躍する人材など、様々な方々と議論を続けています。2022年卒業予定の学生を対象に、マーケターを目指す学生とマーケティングで経営を改革したい企業のマッチングを目指す新卒採用支援プログラム「MCA 幸せな就活」も発表しました。イトーヨーカ堂、パナソニック コネクティッドソリューションズ社、ポーラ、ミツカンホールディングス、横河電機の5社が参加し、プログラムで優秀な成績を収めた学生は2022年度の採用、およびインターンプログラムへの参加権を獲得できます。

 「キャリアとは人生はそのもの。No pain, no gain.」

 話を本シリーズに戻します。

次ページ 「No Pain, No Gain」の気持ちが大切

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