自分が望むキャリアを主体的に築いていくにはどうすればいいのかを、「マーケティング」の観点から学ぶシリーズ「“働く”をマーケティングする」。一般社団法人マーケターキャリア協会(MCA)理事の富永朋信氏らを講師に招き、読者の皆さんと一緒に議論をしながら、マーケティングのエッセンスをキャリア形成に生かす方法を身に付けます。

議論は全8回、以下の各章で2回ずつ実施します。

第1章 あなたをブランド化する
第2章 相手の気持ちを読む
第3章 ポジショニング
第4章 マーケティングを武器にする

 今回は第3章「ポジショニング」の2回目。前回の議論を振り返りながら、新たなテーマについても考えます。

(写真:PIXTA)
(写真:PIXTA)

 皆さん、こんにちは。一般社団法人マーケターキャリア協会(MCA)メンターの谷津かおりです。今回は第3章「ポジショニング」の2回目ということで、引き続き執筆を担当いたします。よろしくお願いいたします。

 まずは前回の議題を振り返ります。

【第3章】ポジショニング
お題(5) 育休から復帰後、「好きだけどきつい」仕事に戻るべきか?

 前回、ポジショニング戦略は企業やブランドのマーケティングだけでなく、個人のキャリア構築を考える際にも非常に重要になってくるということをお話ししました。

 お題の「育休から復帰後、『好きだけどきつい』仕事に戻るべきか?」について少し解説したいと思います。これは、Raise上のコメントにも書いたように、私がCさんの立場だったとしても正直非常に悩ましい選択です。

(1)そのままマーケティング部に復職する
(2)女性キャリア推進室の室長に就く

 この2つの選択肢について、それぞれ考えていきます。

 (1)を選択した場合、それまでの知見と経験を生かしてキャリアにさらに磨きをかけられることと、何より自分が好きで得意とする職種であることは、大きなメリットとなります。一方で、残業時間が多く、仕事の時間も不規則だというのは、体力と時間を要する育児をする上で、かなりの障壁となるのも事実です。私自身も実感していますが、母親になった途端に、自分の時間は自分ひとりで使える時間ではなくなることも認識しておかなくてはなりません。

 (2)を選択すると、基本的に社内を対象とした業務になるため時間のコントロールが利きます。これは育児との両立の上では重要な要素になります。また、今後会社として戦略的に強化していく方針を実行に移すという意味では、Cさんがマーケティング部で培ってきたスキルを生かすこともできそうです。自分自身が新たなライフステージで経験することを生かし、室長というリーダー職で新しいことにチャレンジする魅力もあります。

 しかし、今までマーケティング部でCさんが担ってきた職務とは当然異なってくるので、「好きで得意」なことから少し離れる寂しさは相当出てきます。忙しいからこそ、エキサイティングに感じている部分も少なくなかったので、そんなドキドキ感を味わうこともなくなってしまい、ちょっと退屈に思うかもしれません。

 つまり、どちらの選択肢にもメリットとデメリットがあるわけですが、考え方ややり方次第では、デメリットをなくしたり、逆にメリットに変換したりすることも可能ではないでしょうか。

 (1)の場合のデメリットは、とにかく残業量と不規則な時間ですが、ライフステージの変化を機に、自分が抱える業務の内容や量を整理して部下に任せたり、事前準備のやり方やプロセスを変えたりすることで、不規則になりがちな勤務時間をある程度コントロールできるようになる可能性はあると思います。

 仕事の相手に事情を話して会議時間を調整してもらうことも1つの手段ではあるでしょう。ただし「母親業があるのだから会議時間を変更するのは当然」というスタンスではなく、相手の都合も尊重しながら、仕事に対する責任感や意欲は十分にあって同じゴールを目指しているチームの一員だという姿勢を見せることが大切です。

 (2)のデメリットは、マーケティングという仕事から離れることによるものが大きいです。この点については女性キャリア推進室という新設の部署にCさんがマーケティングの考え方を持ち込めば、よりやりがいを感じられて魅力的な仕事になるかもしれません。

 もちろん、現実はそう甘くはなく、上記のデメリット解消法も言葉で表すほど簡単ではないことは、私自身の経験からも承知の上です。しかし、Cさんのような人が、ライフステージの変化を機に自分のキャリアを見つめ直し「ポジショニング」を再定義することによって、その変化をポジティブなものにすることは可能だと私は信じており、そういう人を応援したいと思っています。

 前回の解説がやや長くなってしまいました。今回はポジショニング戦略を立てる際の注意点と、「同調効果」についてお話ししたいと思います。

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