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キャリアにも「ポジショニング」は大切

 もう1つ、ここ数年話題の「ワークマン」というブランドのケースを取り上げてみましょう。ワークマンは「作業服専門店」として作業服市場にポジショニングしていたブランドから、「アパレルブランド」としてアパレル市場に打って出る戦略にかじを切り、大成功を収めています。ターゲット層も、いわゆる「ガテン系」の男性から、一般の男女、さらには子どもも含めたファミリー層に拡大しています。

 アパレル市場といえば、「グッチ」などの海外高級ブランドから、「ユニクロ」や「ZARA」などの国内外のSPA(製造小売り)やファストファッションと呼ばれるブランド、さらには「ナイキ」や「アシックス」などのスポーツブランドなど、実に多岐にわたる競合が存在します。非常に競争が激しい市場であることは、容易に想像できます。

 しかし、このように飽和状態に見える市場の中で、ワークマンは値段の高低による価格軸に機能性という軸を加えました。それによって、低価格と、耐久性や耐水性などの圧倒的な高機能を両立させた市場には競合がいないことを発見しました。しかもこの市場規模を算出すると4000億円ものブルーオーシャン(競合相手が少ない、もしくはいない未開拓の市場。対義語はレッドオーシャン)であることが分かったそうです。(参考文献:酒井大輔著『ワークマンは商品を変えずに売り方を変えただけでなぜ2倍売れたのか』、日経BP)

 もちろん、他にも商品・店舗づくりやコミュニケーションなど多角的な戦略が奏功したことが現在の結果に至っていると考えられますが、この4000億円の市場を発見した最初のポジショニング戦略が成功の要となっていると言えるのではないでしょうか。

 前置きが長くなりましたが、このようなマーケティングにおけるポジショニング戦略は、キャリアを構築していく上でも同じことが当てはまります。自分の強みを把握した上で、「どのフィールドでそれを発揮していくのか?」「そのフィールドで活躍していくために身に付けるべきスキルは何なのか?」「同僚と比べてどのようなポイントで自分自身を際立たせていくことができるのか?」といったことの整理は、戦略的にキャリアを築いていく際の礎になります。

 個人的な話になりますが、私は前職の広告代理店で日本の母親層のインサイトを研究するプロジェクトを立ち上げ、約10年間リーダーを務めてきました。そのおかげで、社内における「母親インサイトに強いプランナー」というポジショニングが確立され、母親層をターゲットとするプロジェクトにおいては社内のみならず、グループ会社からも声をかけてもらったり、ビジネス誌や業界誌への連載や社内外のセミナー、大学での講義の機会を得たりととても充実していました。西友のPBの開発に関われたのも、まさにこのためです。

 ところがある時、このまま今後のキャリアをずっと「母親インサイトに強いプランナー」というポジショニングのままでいいのだろうかという疑問が、自分の中に出てきました。もちろん、母親層以外をターゲットとしたプロジェクトも担当していましたし、ディレクターとしてチームを率いる立場にも就いてはいました。しかし、築いてきた自分自身のポジショニングが逆に窮屈に感じられるようになったのです。

 先ほどのワークマンの事例に例えると、実に私自身が「作業服の専門店」ならぬ「母親プロジェクトの専門店」になっていたのだと思います。

 ワークマンがそこからアパレル業界という大海原にこぎ出したことに比べると、かなりちっぽけな話ではあります。しかし、私もより広い視点からマーケティング戦略を見たり、組織全体のカルチャーをつくっていったりという、新たな「市場」に魅力を感じ、4年前に現在の会社に転職しました。

 では、ここで改めて第5回のお題を確認したいと思います。