自分が望むキャリアを主体的に築いていくにはどうしたらいいのかを、「マーケティング」の観点から学ぶシリーズ「“働く”をマーケティングする」。今回から第3章「ポジショニング」に入ります。

皆さん、初めまして。一般社団法人マーケターキャリア協会(MCA)メンターの谷津かおりです。外資系広告代理店のBBDO Japanでヘッド・オブ・プランニングとして、クライアント企業のマーケティング・コミュニケーション戦略の策定に従事しています。日経ビジネス電子版でお届けしている「“働く”をマーケティングする」シリーズ、第3章「ポジショニング」を担当いたします。よろしくお願いいたします。
【第3章】ポジショニング
お題(5)育休から復帰後、「好きだけどきつい」仕事に戻るべきか?
そもそも、ポジショニングとは何を意味するのでしょうか?
「ポジショニング」は直訳すると「位置決め」で、野球やサッカーなどで守備位置(サッカーの場合は攻撃も含まれますが)を取ることも「ポジショニング」と言うことから、スポーツ中継などでも比較的よく聞く言葉だと思います。

BBDO JAPAN Head of Planning
早稲田大学卒業後、新卒としてマッキャンエリクソンに入社後、営業本部を経て戦略プランニング本部に異動。育休からの復職後、当時の子育てする母親を「主婦」とひとくくりに捉えるマーケティングに疑問を感じ、母親インサイト研究プロジェクト「Real Mothers (リアル・マザーズ)」を立ち上げ、リーダーを務める。同時に、プランナーとして主に母親/女性層をターゲットとする国内外の企業のマーケティング及びコミュニケーション戦略企画に従事。2010年、コーチ・トウェンティワンによる社内コーチ資格を取得。2016年 BBDO JAPANに入社、戦略プランニング全体を統括。
マーケティング上は一般的に「市場において、ある商品やサービス、企業自体の立ち位置を決めること」と定義されており、市場というフィールド、しかも消費者が頭の中で描くフィールドのどの位置に自社の商品やサービスなどを据えるかを決める、重要な戦略の1つです。そのため、「ポジショニング戦略」と言われることも多々あります。
野球やサッカーでも「ポジショニング」が勝敗を決定づけることがあるように、マーケティングにおいても、それは商品やサービスの売れ行きを左右するのです。
ただし、マーケティングにおける「ポジショニング」がスポーツと圧倒的に違うのは、戦う相手(競合商品やサービス)と戦うフィールド(市場)自体を自分たちで設定しなくてはならないことです。むしろ、この競合と市場の設定こそが、ポジショニング戦略の勝敗を決めると言っても過言ではないでしょう。
つまり、同じカテゴリーにある他社製品や、消費者が普通に想像するカテゴリーの中でどのポジションを取るかよりも、誰を競合相手とみなし、自分たちの強みを最も発揮できる市場はどこなのかを見いだすことが重要なのです。
いくつか例を挙げてご紹介します。
私は、本シリーズの講師である富永さんが西友のCMO(チーフ・マーケティング・オフィサー)だった2011年、西友のPB(プライベートブランド)を新たに立ち上げるプロジェクトに広告代理店のプランナーとして参加しました。PBを一から立ち上げるのは、マーケターとしても非常にワクワクする機会でしたが、当時、既にイオンやイトーヨーカ堂から、単に価格が安いというだけではなく、「安い割に品質が良い」「安い割に素材にこだわっている」といった形でポジショニングされたPBも発売されていました。西友のPBとして、どのようなポジショニングを取るかは大きな課題でした。
また、いわゆる「メーカー品」と呼ばれるNB(ナショナルブランド)では、当然それぞれのカテゴリーで斬新なコンセプトや機能・性能を掲げた商品が次々と発売されています。つまり、単に同じ店舗内で販売されているNBを競合として価格だけで戦うのではなく、イオンやイトーヨーカ堂のPBと比べてもオリジナリティーを発揮し、西友自体のイメージもアップするようなPBを立ち上げなければなりません。そのためには、どうすればいいかというのが、チームにとってのチャレンジでした。
そこで発見したのが「消費者の皆さまが本当に認めてくれた品質」という新たなポジショニングをつくり、そこで勝つという戦略でした。この戦略を具現化するために、実際に全てのPB商品を消費者調査にかけて、70% (現在は80%)以上から「良い」と認められたものだけを発売するという仕組みを設計しました。
つまり、通常は価値と価格のバランスのみで描かれるPBのポジショニングに、全く新しい軸を導入することによって、独自のポジショニングを構築したのです。「みなさまのお墨付き」という、このポジショニングをストレートにネーミングにしたPBは、今もお客様に愛され続けています。ちょうど先日、現在の約1000品目を2022年までに2倍に増やすと発表されました。
ちなみに、残念ながら私自身は転職して仕事上の関わりはなくなってしまいましたが、一消費者として「みなさまのお墨付き」を今でも愛用しています。
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