(写真:PIXTA)
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 こんにちは。リクシス佐々木です。

 今回は、これから本格化する「超高齢化」が、企業や個人にどのような影響を与え得るか、最新の実態データを見ながら具体的にひもといていきたいと思います。

40代以上の65%は「3年以内に両立問題」の恐れ

 日本の超高齢社会の本格化は「2025年」から始まるといわれています。以前の記事でもご紹介しましたが、人口ボリュームゾーンである「団塊世代」が、平均的な「健康寿命」を超える年代、つまり後期高齢者層に突入するからです。

 これに伴い、その子世代である団塊ジュニア層を手始めに、「ビジネスパーソンが高齢家族のケアをしながら仕事をすることが、至極当たり前の時代」がやってきます。

 当社の両立準備診断ツールLCATを受講した8000人以上の企業従業員データを見ると、40代以上のビジネスパーソンのうち、仕事と介護を両立しているビジネスケアラーはすでに10人に1人。「3年以内に仕事と介護の両立問題が発生しうる」ビジネスケアラー予備軍を含めると65%。3人に2人という状況です。

 一方で、40代以上のビジネスパーソンとなると、組織の中ではそれなりの責任を負っていて、幹部として要の役割を果たしている世代。だからこそ、ご自分の両親、義理の両親も含め、複数人の介護に直面するリスクを感じつつも、「まだもう少し先であってほしい」「日々の仕事に追われて、それどころではない」と、本来の両立準備などを後回しにしている状態であることが明らかになってきています。

 実は、団塊ジュニアよりも上の世代は、兄弟姉妹も比較的多く、親に何かあったとしても、ケアを頼める「専業主婦層」がいる、という構造によって、この高齢者ケアとの両立問題を乗り切ってきました。

 しかしながら、これからケアラーとなっていく団塊ジュニア以降の世代は、そうはいきません。兄弟姉妹はほぼ2人以下。男性の3割、女性の2割が「未婚」。既婚世帯であっても、かつてに比べ共働き世帯が多い。

 つまり、今の団塊ジュニア世代以降の「これからしばらく労働生産人口の中核」となるセグメントは、未曽有の「両立サバイバル時代」を生き抜いていかなければならない、ということなのです。

出所:株式会社リクシス仕事と介護の両立支援ツールLCAT診断結果 (2021/9月時点)
出所:株式会社リクシス仕事と介護の両立支援ツールLCAT診断結果 (2021/9月時点)
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「介護休暇」取得率はわずか4.8%

 こうした問題は、これからの企業経営にとってもかなり大きなインパクトになり得るわけですが、その実態はほとんどの企業で正確につかみ切れていないのが実情です。

 分かりやすい例が、「育児休暇」と「介護休暇」の当事者取得率の違いです。

 「育休」取得率を見ると、女性で81.6%。「少ない少ない」といわれ続けた男性育休も、かつて5~6%だった水準から12.7%まで上昇しました。

 しかしながら、「介護休暇」取得について見ると、当社が確認した637人の(仕事と介護を)両立中の従業員のうち、「取得したことがある」と答えた割合は、わずか4.8%にすぎませんでした。

 この背景にあるのは、育児両立に携わる世代に比べ、高齢者家族のケアに携わるビジネスパーソンの中核が、責任あるポジションにある幹部層である、という構造問題です。

 以前のように「妻や親族に任せて」という選択はしにくくなっているにもかかわらず、「今のポジションで休みを取るのは周囲の理解を得にくい」、また、家庭でも大黒柱としての責任を担っている世代である上、両立する上での経済負担も少なくないことから、「休暇取得等により収入を減らすわけにいかない」、「介護は先が見えないので、制度休暇を取りづらい」という声が、当社にも寄せられています。

 つまり、これからのビジネスケアラーは、会社の支援制度をほとんど使うことなく、家族親族の助けも以前より少ない中で、責任あるポジションを全うしながら仕事をし続けることになる可能性が高いわけです。介護離職も少なく、制度利用も少なく、その話しにくさから声としても上がりにくいビジネスケアラー問題には、企業側は「適切に気づくことさえ難しい」のが実情です。

 「育児両立」と「介護両立」はひとくくりにして語られることが多いですが、この問題の複雑さや構造を見ると、まったくもって異なる、より切迫した問題として捉える必要があるといえるでしょう。

出典:2021年9月時点:「LCAT 仕事と介護の両立支援クラウド」よりリクシスとりまとめ
出典:2021年9月時点:「LCAT 仕事と介護の両立支援クラウド」よりリクシスとりまとめ
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迫る「ダブルケア問題」

 当社のデータを見ると、仕事と介護の両立社員のボリュームゾーンは40代、50代です。

 今現在の上場企業従業員の平均年齢が41歳ですから、一般的な企業であれば多くの従業員が「予備軍」ということになります。

 男女別に見ると、そもそも40代以上の企業従業員は男性の割合が多いので、結果的に男性の両立社員がかなり多いということが分かります。幹部社員であっても、上司同僚には「言わずに」、ひそかに両立している方も少なくないようです。

 加えて、女性のキャリア継続が進み、女性活躍・登用が進んでいる中、晩婚化も相まってひたひたと迫ってくるのが、子育てしながら親の介護も行うことになる「ダブルケア」問題です。

 実際、「子供のための産休・育休を取った後なので、介護休暇までというと周りの理解を得られないと思い、取得できない」「仕事と子育ての両立で手いっぱいなところに、親のケアも迫っているので、いろんな機会をもらえる時代になったとはいえ、どうキャリアを選択すべきか悩む」という、リアルな悩みが多く寄せられています。

出典:2021年9月時点:「LCAT 仕事と介護の両立支援クラウド」よりリクシスとりまとめ
出典:2021年9月時点:「LCAT 仕事と介護の両立支援クラウド」よりリクシスとりまとめ
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 これまでとは全く異なる「未曽有の両立サバイバル時代」が始まりつつある今、企業そして私たち個人は、この時代をどう生き抜いていくべきなのでしょうか。ぜひ皆さんのご意見も伺えたらと思います。

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