読者の皆さんと一緒に親、そして自分自身の「老い」とうまく付き合うための「エイジングリテラシー」を学ぶシリーズ。前回は、在宅勤務が仕事と介護の両立を容易にするという発想に疑問を投げかけました。今回は、寄せられたコメントを引用しつつ、介護離職を避けるためにすべきことを考察します。講師は、前回に引き続き、リクシス(東京・港)の酒井穣副社長 CSO(最高戦略責任者)です。

こんにちは、リクシスの酒井穣です。老いに備えるエイジングリテラシー講座の第8回は、第7回の記事「在宅勤務は『仕事と介護の両立』を容易にしない!?」に頂戴したコメントに回答しつつ、議論を深めたいと思います。
両親が元気なころから介護の準備を始め、在宅勤務もできたのに……
まず、情報処理従事者であるK.Gotouさんからのコメントは「在宅勤務ができるから、年老いた親と同居して、介護をしながら仕事もしよう」「柔軟に休めるから、仕事を休んで介護に専念しよう」といった考えの「間違い」を、実体験から語っていただいた、非常にありがたいものでした。
K.Gotouさんの場合は、親の介護を意識して、かなり早くから介護の環境づくりに積極的に動いたケースになります。K.Gotouさんのように、将来を予見して、しっかりと準備をすることは、簡単なことではありません。実際には、介護が必要になってからパニックになる人がほとんどです。
私の母も、長期にわたる重度の統合失調症であり、その大変さは、自分ごととして理解できます。K.Gotouさんの場合は、ご両親のみならず、お兄様のこともあってのUターンだったのでしょう。「やむなし」というお言葉の裏に、Uターンの結果として諦めることになった様々な可能性についての悔しいお気持ちが伝わってきます。
人にはそれぞれ異なる事情があります。なので、こうした意思決定には、周囲はそうそう反対できません。むしろ「プライベートなことだから」と、周囲は遠慮をして「本当はUターン以外の選択肢があるのではないか」と感じても、そうアドバイスしてもらえることも少ないのです。
ここが本当に怖いところです。介護に関する知識がほとんどないまま、Uターンのような重要な意思決定を、周囲からのアドバイスなく行うことには、リスクがあって当然だからです。しかし、介護に詳しい人からのアドバイスを受けるようなチャンスは、普通はありません。そしてK.Gotouさんは、介護離職されてしまいます。
K.Gotouさんの場合は、持ち前の決断力によって、その後をなんとか乗り切られています。それでも、仕事に集中できる環境への復帰に苦労されていらっしゃるようです。そんなK.Gotouさんは、コメントの最後に、次のように述べられています。
とにかく、介護のプロ(ケアマネ、介護福祉士、ヘルパー、理学療法士、作業療法士、栄養士など)の助けが必要であることを「早期に分かっていること」が、とても重要なのです。
介護のプロは、実際にUターンしたケースをはじめとして、多数のケースを観察しています。そうした「本当に知っている人」からのアドバイスを受けることは、介護に限らず、何事においても重要です。ただ、介護についてのアドバイスは、介護のプロと関係性を持っていない限り、簡単には入手できないことが問題なのです。
在宅勤務ができることで、急な呼び出しに対応するなど、介護が楽になることもあるでしょう。同時に、在宅勤務ができたとしても、介護のプロによる支援がなければ、仕事と介護の両立はとても難しくなります。早期に準備を始め、むしろ在宅勤務するために介護離職をすることになってしまったK.Gotouさんのケースから、私たちは多くのことを学べると思います。
K.Gotouさん、貴重な体験談を、本当にありがとうございました。