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 人生100年時代、高齢の親や自分自身の「老い」とどう向き合うかを考えるシリーズ、「老いに備える『エイジングリテラシー』講座」。前回の記事では、次のようなテーマで読者の皆さんのご意見を募集しました。

議論のテーマ(3)
最近、高齢の親の「物忘れ」が以前より増えてきたような気がしています。心配は尽きませんが、まだ病院に連れていくほどでもないかとも思います。一体どうしたらいいでしょうか。

 今回は、皆さんから寄せられた意見を踏まえ、リクシスの佐々木裕子社長CEOが、認知症への備えと付き合い方を解説します。

(写真:PIXTA)

 こんにちは、リクシスの佐々木です。老いに備える「エイジングリテラシー」講座。前回は「脳の老化」と「認知症」の違いから問題提起をさせていただきました。たくさんのコメント、ありがとうございました。


Tak
ビジネスコンサルタント(ヘルスケア)
まず自分が年齢相応なのかどうかを知りたいですね。また認知症にならないようにするためにはどうすればいいのかも知りたい点です。

(※引用するコメントは、読みやすくするために一部を編集する場合があります)

 残念ながら、認知症については発症メカニズムの全ては明らかになっていないため、完全に認知症を予防することは不可能と言わざるを得ません。

 ただ、脳の老化リスク・認知症発症リスク低減のために何ができるのか、そして万が一「ちょっとおかしいな」と思ったとき、どうすれば症状の加速を防げるかについては、様々な研究で信頼性の高いエビデンスが得られています。

 早速、最新の研究成果とともに、「リスク低減の方法論」から解説していきたいと思います。

脳の健康に影響を与える、運動・喫煙・ストレス・生活習慣病

 前回の記事で、「加齢により脳は老化する」ものの、実際にはかなりの個人差があること、また認知症は通常の老化ではなく、「病変」であることをご紹介しました。

 世界中の研究者たちが、この個人差や病変がどのような要因で発生するのか、長年研究を積み重ねています。

 最初に、これまでの研究でほぼコンセンサスが取れつつある、「脳の老化や認知症発症に影響を与えるリスク因子」について、ご紹介したいと思います。

 脳の健康に影響を与える4大因子は「運動」「喫煙」「ストレス」「生活習慣病」と言われています。言い換えれば、これらについて状況を改善していけば、認知症のリスクを減らすことができます。

 下のグラフは米国のアルツハイマー病患者数(推定値)を、リスク因子別に分類したものです。これを見ると、「身体的不活動」、つまり運動不足をリスク因子とする患者数が最も多いことが分かります。

米国におけるアルツハイマー病のリスク因⼦別患者数(推計値)
(出所: Barnes DE, Lancet Neurology 2011)

認知症対策(1):運動の習慣づけでリスクは半減

 運動習慣の有無が脳の老化や認知症発症リスクに大きな影響を与えることは、既に様々な研究で明らかになっており、世界保健機関(WHO)も「運動に対する認知症予防効果には中程度のエビデンスがあり、強く推奨する行動」と明言しています。

 運動が脳に与える好影響は、血圧、ストレスなどの複合的な抑制効果から、脳の細胞増殖・成長を促すタンパク質の分泌まで、直接・間接含めると非常に多岐にわたることが分かってきています。運動が脳に与える好因子の例をまとめると、次のようになります。

運動が脳に与える好因子の例

  • 血圧を下げるなど、一般危険因子の低減(脳血管の老化回避)

  • 血管や神経細胞といった脳の組織の構築強化

  • 脳の成長を促す神経栄養因子であるタンパク質(BDNF)の増強

  • 認知症リスク要因の1つであるアミロイドβ蓄積の抑制

 追跡期間が 10 年を超える大規模な観察研究でも、運動習慣を有する群は、有さない群に比べ認知機能低下、認知症、血管性認知症、アルツハイマー病などの発症リスクが有意に低いことが実証されています。

 早歩き程度の30分くらいの運動を週3回以上行う運動習慣を持つだけでも、全く運動習慣がない場合と比べると、認知症発症リスクを半減させることができるというデータもあります。とにかく、1日数十分は運動する習慣を始め、続けることが重要だといえるでしょう。

認知症対策(2):ストレス軽減、リフレッシュと十分な睡眠の確保を

 米ボストン大学の研究者たちは2018年、ストレスレベルを表すコルチゾール水準の高いグループは、それ以外のグループよりも脳の萎縮が進んでおり、認知機能テストの結果も低いことが分かったと発表しました。また、コルチゾールが高い水準が続くと、思考や感情、発話、筋肉の働きをつかさどる大脳の萎縮も進み、学習や記憶に関わる海馬という部位の働きが鈍くなることも分かっています。

 過剰なコルチゾールは海馬で新しい脳細胞が作られるのを妨げるため、うつなどの精神疾患の要因となり、アルツハイマー病を引き起こすこともあると考えられています。

 なお、睡眠時間が不足していてもストレスホルモン「コルチゾール」の濃度は高まります(実際、睡眠時間が1時間短いと、認知機能は1年間で0.67%低下するという研究データもあります(Lo, Sleep 2014; 37: 1171–8)。

 将来の認知症リスクを低減するためにも、今のうちから定期的にリフレッシュし、十分な睡眠を取る安定した生活習慣を続けることが大切です。