「人生100年時代」といわれる中、高齢の親を抱えるビジネスパーソンも少なくありません。40代にもなると、「仕事と介護をどのように両立するのか」や、「自分自身の『老い』とどのように向き合っていくのか」という不安や悩みが出てくるのではないでしょうか。

 本シリーズでは、企業向けに仕事と介護の両立支援サービスなどを手掛けるリクシス(東京・港)の佐々木裕子社長CEO(最高経営責任者)と酒井穣副社長CSO(最高戦略責任者)を講師に、読者の皆さんと一緒に親、そして自分自身の「老い」とうまく付き合うための「エイジングリテラシー」を学んでいきます。

 前回までは、コロナ禍で引きこもりがちになる高齢の親の健康をどのように維持したらいいのかについて考えてきました。今回からは、高齢の親の「免許返納」について考えます。ぜひ、皆さんのご経験やお悩みをお聞かせください。

(写真:PIXTA)
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議論のテーマ(2)
後期高齢者の親が最近車を買い替えました。高齢ドライバーによる事故のニュースを見聞きするたびに、本当にこのままでいいのか、正直不安が募ります。でも、今の親の生活には車が欠かせないので、免許返納を切り出すことは簡単ではありません。一体どうしたらいいでしょうか。

 こんにちは。リクシスの佐々木裕子です。「老いに備える『エイジングリテラシー』講座」、2つ目の議論のテーマには、高齢ドライバーの免許返納問題を取り上げてみたいと思います。

 高齢ドライバーの運転リスク問題に急激に焦点が当たりだしたのは、2016年10月、87歳が運転する軽トラックが小学生の列に突っ込み、小学生9人が巻き込まれて1人が死亡する、という神奈川県で起きた衝撃的な事故が報じられたころからでした。

 その後も、高齢ドライバーによる事故報道は絶えることがなく、結果として、私自身もそうですが、「日常的に運転する親」を持つビジネスパーソンの多くは、常に「親の免許返納問題」が頭にちらついている状態だと思います。

 もっとも、警察庁が取りまとめている統計によれば、75歳以上の高齢運転者による死亡事故件数は、近年「おおむね横ばい」で推移していて、「高齢ドライバーによる死亡事故件数が急増している」というイメージは、実は必ずしも事実ではありません。

 正確には、シートベルト着用率の上昇や違反の厳罰化によって、交通死亡事故件数全体では2004年(平成16年)をピークに約3分の1にまで急減しているのに、高齢ドライバーによる事故件数が横ばいであるため、交通死亡事故件数全体に占める「運転者」の構成比が、ここ10年で約1.7倍(2005年=7.4%→2015年=12.8%)にまで急増した結果、注目され、問題視されるようになったというのが実態のようです。

75歳以上の高齢運転者による死亡事故件数及び構成比
75歳以上の高齢運転者による死亡事故件数及び構成比
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高齢者が運転する「リスク」の現実

 では、高齢者による運転にはどれくらいのリスクがあり、それはどうして起きるのか、もう少し理解を深めていきましょう。

 免許人口10万人当たりの死亡事故件数を年齢別にみると、75歳以上の高齢運転者は 75歳未満の運転者と比べて約2.4倍になっています。

第1当事者の年齢層別免許保有者10万人当たり死亡事故件数(2015年中)
第1当事者の年齢層別免許保有者10万人当たり死亡事故件数(2015年中)
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 事故原因でみると、「ブレーキとアクセルの踏み間違い」などの操作不適の割合が高いのが高齢ドライバーの特徴で、交通事故ビッグデータが蓄積されている交通事故総合分析センター(ITARDA)の解析結果でも、運転に必要な「認知・判断・操作」のうち、75歳以上になると認知と操作に起因する事故が急増することが明らかになっています。

人的要因に関わる死亡事故発生率(2007~16年 第1当事者合計)
人的要因に関わる死亡事故発生率(2007~16年 第1当事者合計)
(データ:ITARDA交通事故データベース(マクロデータ)H19-28第一当事者合計、出所:公益財団法人 交通事故総合分析センター 第20回研究発表会 高齢社会における交通事故リスクとモビリティ支援
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 警察庁で蓄積している運転適性検査の基準データでも、「認知」してから「反応」するまでの「平均反応時間」が加齢とともに長くなり、その個人差が加齢とともに大きくなっていくこと、また、「ハンドル操作」の時間誤差・空間誤差が、70歳を超えたあたりから急激に上昇する現象がみられています。

 つまり、高齢ドライバーの運転技術低下は、

(1)「物事を認識する反応速度の低下」という問題(視力の低下、注意力の低下など)
(2)「空間認識をしながら思った通りに身体を動かす運動機能の低下」という問題(ハンドル操作が遅れる、ブレーキ・アクセルペダルを間違える)

 が、加齢によって複合的に起こるもの、ということです。

 ただ、加齢とともにこの問題の「個人差」が大きくなることも分かっていますので、実は「一律に年齢でひとくくりにできない」というのが、ことの難しさの本質といえるでしょう。

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