こんにちは。リクシスの佐々木です。

 前回記事では、健康寿命エリートである110歳を超える「スーパーセンチナリアン」の存在についてご紹介しました。たくさんのコメント・反響を頂き、ありがとうございます。

 今回は頂いたコメントを交えながら、スーパーセンチナリアンがなぜ健康寿命が長いのか、もう少し深掘りしていくとともに、「100歳以上まで長生きする時代に、私たちは本当に幸せになれるのか」というテーマについても、取り上げたいと思います。

(写真:PIXTA)
(写真:PIXTA)
(※引用するコメントは読みやすさを考慮し、一部編集している場合があります)

スーパーセンチナリアンは生まれつき特殊な人々なのか?


木戸美帆
日産自動車(株)総合研究所
現在の110歳以上と比べて、既にCD4陽性キラーT細胞という特殊な免疫細胞が少ないということは、①CD4陽性キラーT細胞という特殊な免疫細胞は100歳くらいまで生きると(ご褒美として?)増加する、または②現在の110歳以上のスーパーセンチナリアンは世代の特徴としてCD4陽性キラーT細胞という特殊な免疫細胞を持つ人が多い、のどちらかになるのでは?と思いました。

 前回の記事で、理化学研究所と慶応義塾大学の研究で、50歳から80歳のグループと比べて、110歳を超える「スーパーセンチナリアン」には、CD4陽性キラーT細胞という特殊な免疫細胞が多く発見された、ということをご紹介しました。

 ちなみに、CD4陽性キラーT細胞というのは、ヒトの血液中にはあまり存在しないのが通常であり、どんな機能を果たしているのかはあまり正確に解明されていないのだそうです(マウスモデルを使った実験では、メラノーマ<皮膚がん>を排除したことが分かっているそうですが)。

 木戸さんのおっしゃるように、この特殊な免疫細胞が最初から多い人がスーパーセンチナリアンになるのか、それともスーパーセンチナリアンになる老化の過程で免疫細胞が増えるのか、とても興味があるところですよね。

 まだそのあたりのメカニズムの全貌は解明されていないのですが1つだけ分かっていることがあります。それは、スーパーセンチナリアンの持つ多くのCD陽性キラーT細胞が「同一の受容体」を持っている、ということ。つまり、最初からこの免疫細胞が多かったわけではなく、途中で何らかの抗体に対して「クローン性増殖」した可能性が高い、ということのようです。

 まだ、何の抗体に対してクローン性増殖したのか、そして老化にとってこの増殖の意義は何なのかは明らかになっていません。さらなる研究が待たれるところですね。

健康長寿の鍵は、心臓と腎臓の血液循環システムの「老化速度を下げること」

 これからの時代は、様々な医学や科学技術の発展によって、平均寿命は113歳にまで延びる、といわれています。しかし、スーパーセンチナリアンは、その技術発展がなくても、100歳時点でも自然体で自立生活を保てており、認知機能も含めて比較的健康なまま年齢を重ねている健康寿命エリートたち。彼らから、これからの私たちが学べることとは、一体なんでしょうか。

 この点、慶応義塾大学医学部百寿総合研究センターの研究者たちは、「心臓と腎臓の老化に伴って循環器系の臓器に流れる血液の状態が不安定になることが、ヒトの寿命を規定するのではないか」との仮説を立てています。

 実際、スーパーセンチナリアンは、糖尿病や高血圧などの生活習慣病にかかっている人が極めて少なく、一般的な心臓老化の特徴でもある「左室肥大」の割合も低い。また心臓病の兆候によって濃度が上がるホルモンの一種「NT-proBNP」というバイオマーカー(指標)の上昇レベルも低いことが明らかになっています。まさに「心腎循環システムの老化が遅い」ことが共通の生物学的特徴だからです。

 私たちの身体の中で、全身に十分な血液を送り続けるために、心機能、腎機能、そして栄養・肝機能、それらをつなぐ血管が重要な働きをしています。この血液の循環が安定する状態が保たれていると、細胞や臓器の機能老化を緩やかにし、健康寿命を長くできる可能性が高い、というわけです。

 認知機能維持という観点でも、高血圧、糖尿病等にかかっていると認知症発症率が2倍以上になることが明らかになっていますし、脳血管疾患そのものが認知症発症の大きな要因ですから、非常に納得感のある仮説です。

 バランスのよい食生活と適度な運動をし、十分な休息と睡眠をとることで、生活習慣病を回避し、動脈硬化を減らし、心腎疾患リスクを抑えて、循環システムの安定性を保つ努力をする。

 いずれも一般的に「健康によい」といわれていることばかりですが、そういったことが身体の老化スピードの抑制につながることが、科学的に解明され始めているということだと思います。改めて、日々の自分の生活を見直してみたくなりますよね。

100歳まで長生きをすることは、本当に幸せなのか?― 「幸せのUカーブ」から考える


10022
個人的には自分が100歳まで生きると思うとちょっとうんざりします。できるだけ早く退職して老後を楽しんで他界したいと思いますが100歳まで生きる(生きさせられる)となるといつまで働くのか気が遠くなります。それに生きがいをずっと保つことができるのか。

 皆さんから頂いたコメントを拝見すると、10022さんのように、「本当に長生きするのは幸せなのか」という不安や疑問を呈される方も少なくありませんでした。

 人類の平均寿命が100歳を超える、ということは人類史上かつてない未知のことですし、歴史をひもといても、現代の社会心理学的にも、「老い」というものへの一般的な社会概念はネガティブなものですから、「老い」の期間が長くなることに対する不安や恐れが一番先に来るのは、極めて自然なことだと思います。

 実際、老いて生き永らえるほど、世の中と離れ、幸せではなくなっていく、というイメージが、多くの方々の中にあるのではないでしょうか。

 この点について、実は多くの研究データ・議論があるのですが、未来に希望が持てる最新の調査研究結果を2つほどご紹介したいと思います。

 1つ目は、ダートマス大学のブランチフラワー教授が昨年発表した、145カ国の年齢別主観的幸福度の研究です。この研究によれば、先進国でも発展途上国でも、欧米でもアジアでも、主観的幸福度はいわゆる「U字型」になっていて、若いうちの幸福感は高いがその後下がり続け、おおむね40代から50代前半がボトム水準となり、60代以降は逆に右肩上がりになっていくことが示されています。

 2つ目は、日本で2019年に内閣府が発表した「満足度・生活の質に関する調査」にある年代別の総合主観満足度の分析です。こちらもブランチフラワー教授の研究データ同様、45~59歳をボトムとする「U字型」になっていることが示されています。

 加齢に伴ってネガティブな状況が増えるはずにもかかわらず、幸せ度が最も低いのは普遍的に「中高年」で、「高齢者」の幸福感は世界的に見ても低くないのはなぜなのか。この現象は、「エイジングパラドックス(Aging Paradox)」と呼ばれ、最近老年学研究でも非常に注目されています。

 このエイジングパラドックスの背景としては、現時点で2つの可能性が考えられています。

 1つは、「幸福感が高い個人が長生きしやすい」という可能性です。実際、近年の縦断研究ではその仮説を裏付けるような研究結果が、多数報告されています。

 そしてもう1つは、超高齢期以降にも幸福感を維持するための、何らかの「自己心理発達」の仕組みが存在しているという可能性です。

 心理的な生涯発達のモデルで著名な研究者であるジョアン・エリクソン(Jhoan Erikson)も、93歳に執筆した著書で自ら超高齢者となり身体的虚弱を経験したこと、そしてその状態を受け入れ、喜びを感じることができる「新たな心理的発達」を経験したと述べています。

人生100年時代の70代は、今の50代くらいの感覚かもしれない

 さらに、これからを考える上でもう1つ忘れてはならないのは、「高齢社会」というのは、ただ高齢者が増えるのではなく、「健康な高齢者が増えていくプロセスでもある」ということだと思います。

 私たちはついつい、寿命が今より短かった時代に作られた認識やシステムの概念を、そのまま引きずってしまいがちです。でも、サザエさんに出てくる波平さんは54歳、フネさんが52歳だったことを考えると、イメージ的に今の70代が1960年代の50代前後と言えるかもしれません。

 だとすると、人生100年時代の90歳は、今の70代くらいのイメージで、そのときの70代はひょっとすると今の50代くらいのイメージになっていくのかもしれない。

 そう考えると、私たちのものの見方次第で、老いることに「幸せ」と「希望」を感じ、結果的に、心身ともに成長しながら長い人生を楽しむことができるのかもしれません。

 日本は未曽有の超高齢社会に世界に先駆けて突入するわけですが、これからの「超高齢社会」は、かつての寿命の短かったときのシステムとは異なり全く新しいものになっていく必要がある気がします。

 スーパーセンチナリアンから健康長寿の秘訣を学びつつ、「長生きはそれほど悪くない」という希望とともに、新しい豊かな高齢社会を、皆さんと一緒に創っていけたらと心から思います。

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