読者の皆さんと一緒に親、そして自分自身の「老い」とうまく付き合うための「エイジングリテラシー」を学ぶシリーズ。今回は、高齢の親が介護施設に入居するタイミングについて、前回の議論で皆さんからいただいたコメントを踏まえて解説します。

(写真:PIXTA)
(写真:PIXTA)

 リクシスでチーフ・ケア・オフィサーを務めている木場です。

 前回は、実際の相談事例を基に「高齢の親が介護施設に引っ越すタイミング」について考えました。その中で、施設入居を考える前に家族で確認したいことと、実際に高齢で転居される場合の相場についてお伝えして、皆様のご意見を求めました。

 今回は、前回の記事に対していただきました皆様のコメントを基に、もう少し考えを深めてみたいと思います。

本人が意思決定できる元気なうちに入居すべきか

(※引用するコメントは読みやすさを考慮し、一部編集している場合があります)


Makita
人事リーダー
 タイミングは、本人自身が意思決定できる時がよいのではないでしょうか?(中略)私はできるだけ元気なうちに施設に入ってもらうほうがよいかなと思っています。どのくらい元気かにもよりますが、認知症などの場合ですと自分で意思決定ができることと、身体的にはリロケーションに耐えることができる範囲で元気かが私なりの基準です。

 いつかは介護施設に入居するという前提であれば、Makitaさんのおっしゃる通り、比較的元気なうちに転居をしたほうがリロケーション(引っ越し)のダメージを小さくできる可能性は高く、自分自身で意思決定ができるうちに転居したほうがよいように思えます。

 Taroさんからは実際に家族で相談して親御さんが健康型有料老人ホームに入居されたという貴重なお話をいただけました。


Taro
 80代の母が健康型有料老人ホームに入居しています。
(中略)
 母自身が以前地元にできた健康型有料老人ホームに関心を持っていたこともあり、寒い日本家屋の一人暮らしでは健康の面で心配であること、人と話すことや旅行が好きな母にとっては同世代の元気な高齢者との生活もいいのではないかと思い、ホームへの入居を勧めました。
 今では旅行や出かけることが好きな母にとって多少帰宅時間が遅くなっても安心です。1日3回の食事のうち2食は自分で料理して食べたいものを楽しんでいます。
 本人は入居一年目頃までは、住み慣れた家がよかったが、慣れると今の生活がいいと言っておりました。

 実は、自立のうちに入居する健康型有料老人ホームは、まだ数えるほどしかありません。お互い納得の上で選択できただけでなく、お母様が転居後の生活に満足されているというのは素晴らしいことだと思います。

施設に入居している人の8割は認知症が発症してから転居している

 ただ、全体で見ると、早い段階で施設などに入居する方はそう多くないようです。前回も紹介しましたが、LIFULL seniorが2020年11月に発表した資料によると、80代で入居する人が最も多くなっており、入居時に介護が必要ない「自立」した状態だった人は5.2%にすぎません。

 また、入居時に認知症の症状がある人が8割以上という結果も出ており、本人や家族が困ってから入居する場合がほとんど、という割合に見えます。

被介護者の施設入居前の状況_認知症症状の有無(全体)
被介護者の施設入居前の状況_認知症症状の有無(全体)
LIFULL senior「介護施設入居に関する実態調査」 (家族・親族の中で1年以内に介護施設入居者がいる方、または家族・親族の介護施設の情報収集や選定に関与した方対象)
[画像のクリックで拡大表示]

 急に親御さんが寝たきりになり入居先を探したという技術者さんの話は、高齢の親を持つ誰にも起こりうることです。


技術者
 私の父親は独居老人でしたが肝硬変になり、そのまま入院、寝たきり状態となりました。介護度4と診断されたので特別養護老人ホームを10カ所巡り、地元の人のみ採用される小規模の特別養護老人ホームに運よく入所できました。
(中略)
 実際自分が要介護になったとき、自分で対応できるかちょっと不安にはなりました。子供に迷惑かけたくないからねえ……

 多くの方が困ってから転居先を探し、「運」に頼らなければならない現状にもかかわらず、早い段階で転居する方が少ない理由は他の方のコメントにも表れています。

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