全4263文字

 社外人材によるオンライン1on1(1対1での面談)サービスを提供しているエール(東京・品川)取締役の篠田真貴子氏と、経営にまつわる様々な議論をしていくシリーズ。今回から2回に分けて、2020年9月に「人材版伊藤レポート」を公表した一橋大学CFO教育研究センター長の伊藤邦雄氏との対談を掲載する。

 伊藤氏は、経済産業省が2014年に公表した報告書「持続的成長への競争力とインセンティブ~企業と投資家の望ましい関係構築~」(通称「伊藤レポート」)で注目を集め、「ROE(自己資本利益率)8%」という数値目標を示して日本企業のコーポレートガバナンス(企業統治)改革をけん引してきた。

 今回、伊藤氏はなぜ、「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会報告書~人材版伊藤レポート~」を取りまとめたのか。その背景を、篠田氏が聞く。

 日本企業の人材投資はなぜ遅れたのか。インタビューを踏まえ、皆さんからのご意見をお待ちしている。

「人材版伊藤レポート」を取りまとめた伊藤邦雄・一橋大学CFO教育研究センター長(右)とエール取締役の篠田真貴子氏(左)(写真:的野弘路)

篠田真貴子・エール取締役(以下、篠田氏):伊藤先生が「人材版伊藤レポート」を発表されたということで、これは企業の人材・組織戦略に注目が集まる大きな波が来ているのではないかと、心強く思いました。私自身、日本企業の人材と組織のあり方について、ずっと問題意識を持ってきたのですが、どこか感覚がズレているな、とずっと思っていたからです。

伊藤邦雄・一橋大学CFO教育研究センター長(以下、伊藤氏):波は間違いなく来ています。この「人材版伊藤レポート」を出してから、「全役員にこれを読むように配りました」と言ってくれた経営者が何人もいました。

 2014年8月に「伊藤レポート」を発表したときは、経営者は自身で受け止め、全役員に読ませたという反応はそう多くはありませんでした。「そういうもんかね」と一部の人が読んでいただけでしたね。ただ、海外の投資家やメディアからの反響が予想以上に大きく、急速に、逆輸入されるような格好で広がりました。結果、経営者や経営幹部の方たちへの反響が想定を超えて大きくなっていきました。米ブルームバーグは、「利益の落第生である日本が、やっとグローバルな水準を目指そうと動き始めた」というような記事を載せていました。

篠田氏:伊藤先生と言えば「ROE8%」のイメージが強いのですが、なぜ今回、伊藤レポートの人材版をつくることになったのですか。

伊藤氏:きっかけは、経済産業省から研究会をやりたいので座長をやってくれと言われたことですが、そもそも私が長年、多くの会社で経営人材の育成に関わってきたことに注目してくれたようです。30年近く前に東レが選抜型経営人材育成のための「東レ経営スクール」をつくるときにプログラムを全て作りましたし、一橋大学財務リーダーシップ・プログラムで多くの経営者の育成に関わってきました。

 今回、人材をテーマにしたのは、私にとっては200%くらい当然のことです。