社外人材によるオンライン1on1(1対1での面談)サービスを提供しているエール(東京・品川)取締役の篠田真貴子氏と、経営にまつわる様々な疑問を議論していくシリーズ。

 前編後編の2回に分けて、「ダイバーシティー」について、スリーエムジャパン(東京・品川)の昆政彦社長と考えてきた。

 今回は読者の皆さんからのコメントを踏まえつつ、篠田氏とともに対談での学びを振り返る。

「自らがんを患い、マイノリティーの立場になったことで、ダイバーシティーについての理解がより深まった」という昆社長のお話は、ダイバーシティーがなぜ必要なのか、そして、どのように実現していったらいいのかという問いを考える上で、とても示唆に富むものでした。篠田さんは、どのような点が特に印象に残っていますか。

篠田真貴子氏(以下、篠田氏):まず、ダイバーシティーはどのようなもので、なぜ重要なのか、具体的な状況が思い浮かぶように言語化していただいたのが素晴らしいなと思うのです。

 例えば、女性比率が2割に達していたとしても、「男性と女性が別々に話していて、最後に多数決で男性の意見が通る、という状況では意味がない」とお話しになりました。組織における女性比率といった数値でダイバーシティーの度合いは把握できるものだとしても、それだけでは意味がない、ということを理解する上で、昆社長の例えはとても分かりやすく、かつ解像度高くイメージが湧きます。

対談で篠田さんは、「ここまで分かりやすく言語化してもらった経験は初めて」ともおっしゃっていましたね。篠田さんもマネジメントに関わっていますが、マネジメント層の人たちはダイバーシティーが本当の意味でなぜ大切なのかを、明確に言葉にして示すことがうまくできていないと感じていたのでしょうか。

エールの篠田真貴子氏(右)とスリーエムジャパンの昆政彦社長がダイバーシティーをテーマに対談した
エールの篠田真貴子氏(右)とスリーエムジャパンの昆政彦社長がダイバーシティーをテーマに対談した

篠田氏:ダイバーシティーの大切さが分かっていないということではなく、全ての人に分かるように言葉で伝える難しさは感じています。

 昆社長の場合、昆社長自身の個性に加えて、スリーエム(3M)で長年練り上げられてきたダイバーシティーの考え方や、新しく入ってきた社員にどのように伝えるのか、という多くの経験を積んできたからこそ、言語化してイメージしやすく伝えることができているのだと思います。

3Mが長い時間をかけてダイバーシティーを企業文化として浸透させてきたからこそ、昆社長自身も言語化できるということですね。

篠田氏:さらに言うと、そんな3Mでずっとキャリアを積んできた昆社長であっても、ご自身ががんを患ってマイノリティーの立場を経験する前と後では、ダイバーシティーとインクルージョンについての感じ方が違うと語っていました。インクルージョンについての「考えが浅かった」と言っていましたよね。

 こうした問題は、当事者ではないほうがうまく言語化して伝えられるということもあると思います。私もそうなのですが、自分が個人的に経験したことや思いが強すぎると、個別のことについて過剰に細かく話してしまいがちです。当事者でなくて、問題意識を持って客観的に物事を整理できる人のほうが、うまく伝えられる場面も少なくありません。

 でも同時に、やっぱり自分の経験があるからこそ、解像度高く問題の本質が見えたり、感じられたりする場合もありますよね。特に、ダイバーシティーの問題は、マイノリティーになってみないと、何が起きているのか、その景色が見えないことがあると思います。そのことを昆社長は実際に体験なさった。その結果、客観性と当事者性の両方を本当にバランスよく持っているのだと感じました。

 管理職になることを望まない女性が多いという文脈の中で、昆社長が「それは本当の気持ちですか、と聞かなくてはいけない」とおっしゃったとき、私は今のような社会規範の中で生きてきた女性は、「自分の本当の思いが分からなくなってしまっている」と申し上げました。そのとき昆社長は、「自分はマジョリティーにいた経験があるから、『それは本当の気持ちですか』と聞かれたら、『いや違う』と気が付くことができたと思うけど、確かに多くの若い女性はリーダーの経験もないし、分からないよね」とすぐに同意してくださった。それは、昆社長がマジョリティーとマイノリティーの両方の立場を経験しているからこそ、すぐに出てきた言葉だと感じ、感銘を受けました。

次ページ 見落としがちな階層間のダイバーシティーに目を