社外人材によるオンライン1on1(1対1での面談)サービスを提供しているエール(東京・品川)取締役の篠田真貴子氏と、経営にまつわる様々な疑問を議論していくシリーズ。

 外資系コンサルティング企業やメーカー、「ほぼ日」など様々な組織で働いてきた篠田氏。その中で「組織によって自分の引き出される面や、発揮できる力がずいぶん違ってくる」という実感があったのだという。また2人の子育てでは、キャリアと子育ての間で悩みを抱えた経験もあり、「組織と人の関係」に関心を持ってきた。

 「なぜ組織には女性活躍が必要なのか」「組織の多様性は事業にどのような強みをもたらすのか」。そんな素朴な疑問を改めて考えようと、今回は「ダイバーシティー&インクルージョン宣言」を2014年に打ち出したスリーエムジャパン(東京・品川)の昆政彦社長に話を聞いた。

 対談の内容は前編・後編に分けて公開する。前編のテーマは「イノベーション」。スリーエム(3M)には、ビジネスに役立つと考えられるものであれば、社員それぞれが労働時間の15%を好きな研究に自由に使える不文律の「15%カルチャー」がある。付箋「ポスト・イットノート」などのイノベーションは、そこから生み出されてきた。

 昆社長は「マネジメント層はイノベーターではない」と話す。では、イノベーションを起こす上でのマネジメント層の役割とは?

篠田真貴子・エール取締役(以下、篠田氏):今回は、私自身が本当に関心を持っている「ダイバーシティー」と「インクルージョン」をテーマにお話をうかがえたらと思っています。

 「多様性」とも訳されるダイバーシティーというキーワードは、企業においてはイノベーションを起こすための組織の在り方を語る文脈とつながっているのではないかと考えています。スリーエム(3M)は、イノベーションを起こし続けている会社として知られていますが、昆社長は経営者としての経験から、イノベーションとダイバーシティーの関係をどのように考えていますか。

イノベーターとプロモーターの区別を

昆政彦・スリーエム ジャパン社長(以下、昆氏):イノベーションとダイバーシティーの関係でいうと、我々のイノベーションの起こし方は、プロダクトベースなのです。新しい事業をまず立ち上げるようなスタンスではなくて、小さなイノベーションを次々と生み出していき、より大きなイノベーションの流れをつくっていくというイメージですね。

 ここで意識しないといけないのは、誰が「イノベーター」で、誰がそのビジネスモデルを引っ張っていく「プロモーター」(促進者)なのかということです。

 経営者は結構、ここを間違えるのです。経営者に「イノベーターにはどのような資質が必要ですか」といった質問をすると、機動力や強いリーダーシップといった資質を挙げる方がいます。しかし、そういった資質が必要なのは、実はイノベーターではなくて、ビジネスモデルがつくり上げられた後に事業を引っ張る人たちなのです。

 「イノベーター」と「プロモーター」の2つはしっかりと分けないといけません。実際のアイデアは必ずしもプロモーターが出すわけではなくて、イノベーターが出すのです。もちろん同じ人が両方の役割を果たす場合もあるかもしれませんが、3Mのように現場レベルでプロダクトを開発していると、エンジニア一人ひとりがイノベーターに当てはまります。

 一人ひとりのイノベーターがアイデアをまず出せるように、「15%カルチャー」のように失敗を許しながら自由な発想を持てる環境を用意して、アイデアが具体的なものになってきたら、プロモーターが管理する段階になります。

 さらに、3Mの場合はイノベーションだけではなくて、あえて「イマジネーション」という言葉を使っています。イマジネーションとイノベーションは違います。最後にお金になって、初めてイノベーションと言えるからです。ただ、これだけを追いかけてしまうと、目の前のものばかりを追いかけてアイデアが枯渇するんですよ。

 だからこそ、イマジネーションの部分を自由な発想で、失敗できる環境で持っておかないといけないのです。

 3Mのマネジメント層は以前から「自分たちがイノベーターでないということを理解しなさい」と強く言われています。イノベーターでない人が、イノベーターに対して高圧的に一方的な指示を出すというのは、基本的にはしません。マネジメントは、自分がイノベーターではないことを理解しないといけません。

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