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 社外人材によるオンライン1on1(1対1での面談)サービスを提供しているエール(東京・品川)の取締役の篠田真貴子氏と、経営にまつわる様々な疑問を議論していくシリーズ。「幸せ」研究で有名な日立製作所フェローでハピネスプラネット(東京・国分寺)のCEO(最高経営責任者)の矢野和男氏との対談前編では、矢野氏が主張する「データは未来予測に役立たない」という主張について、皆さんの意見を募集した。

 対談後編は、幸せを感じる組織をどのようにつくるのかを議論する。データでは未来予測はできないが、幸せな組織かどうかを予測することはできるという。どういうことか?(企画・構成:定方美緒

対談する矢野氏(左)と篠田氏

前編から読む)

組織の「幸せ」は予測できる

篠田真貴子氏(以下、篠田氏):矢野さんは人の行動や心理状態といったデータを組み合わせることで、組織の幸せ度を計測・予測しようとしています。その取り組みに、「データでは未来を予測できない」というその問題意識をどのように反映しようとしているのですか。

矢野和男氏(以下、矢野氏):15年ほど前から、私はデータがこれからの社会の大事な要素になると妄想してきました。その中で、どのような組織で人が幸せを感じ、高いパフォーマンスを出せるのかをテーマに研究を始めました。学校や病院なども含めた多様な職場で働く方たちにウエアラブルセンサーを取り付けて行動を計測し、心理学や経営学で取り扱われているテーマについてもアンケートを実施してデータを集めました。

 その結果、働く人が幸せを感じる組織には非常に普遍的かつ共通の特徴があり、一方で幸せを感じない生産性の低い組織にも共通の特徴があるという事実を発見したのです。

 「幸せ」という言葉には「どうしたらいい状態になれるか」という、手段としての「幸せ」という概念が含まれています。飲み会で幸せを感じる人もいれば、今回のような対談で幸せを感じる人もいます。それは、個人の性格によって千差万別です。

 一方で、手段としての「幸せ」ではなく状況としての「幸せ」が、なぜ古今東西で共通概念になっているかというと、それは1000年の単位では変わらない普遍的な要素が我々の体内にあるからです。血圧や呼吸数、ホルモン、発汗などの体内現象がそれに当たります。

 「この状況から早く逃げた方がいい」という恐怖や恐れという感情や、「繰り返すとよりいい状態になる」といった生き残りの確率が高くなるような体のメカニズムは、時代が変わったからといって変わるものではありません。つまり、これは予測不能なものではないということです。

篠田氏:私たちが予測したい時間軸の中では、「幸せ」だと感じる状況は変わらないということですね。

矢野氏:非言語の体内現象はなかなか見えないですが、唯一目立っているのが筋肉の動きです。表情やジェスチャーで、信頼や不信感、同調といった非言語のコミュニケーションをとっています。良い組織には共通にシグナルがありました。

 私たちのアプリ「Happiness Planet」では、こうした筋肉の動きをスマートフォンやウエアラブル端末を通じて、加速度センサーで計測していきます。組織を運営するための基本的なツールにしようということです。ダイエットで言えば体重計のようなものです。これをまずは法人向けに取り組みます。

篠田氏:「幸せが測れる」という点は一貫したテーマだったけれども、みんながスマホを持つようになったのは、まさに予測できなかった大変化ですね。日常生活の中で持ち歩くアプリを組織の皆さんが入れることで、組織の幸せ度が測れるようになったということですね。

「幸せな組織」の4条件

矢野氏:良い組織とはどのようなものかについて、4つの特徴が明らかになりました。

(1) 人と人とのつながりが網目状か
(2) 5~10分の短い会話が毎日のようにあるか
(3) 発言権が平等にあるか
(4) 身体的な同調行動が平等にあるか

 ハッピーな組織は人と人とのつながりが網目状です。アンハッピーな組織は特定の人がつながりを占有しています 。

 またハッピーな組織では5~10分の短い会話が毎日のように繰り返されています。一方で、アンハッピーな組織は1週間に1度の定例会議での1~2時間の対面だけで、それ以外はありません。1時間の会議は5分の会話を置き換えることはできません。全く違うものです。1時間の会議は業務によってはあることもないこともどちらの場合もありますが、5分の会話は絶対に必要だということです。

 「組織の幸せの総量」を決めるのは、9割以上が人間関係に関連しています。組織では常に上下関係があって、評価に常にさらされています。評価は人の人生に大きな影響を与えます。その評価を意識したときに、「なんでこんなことを発言するんだ」という空気感であれば、一番手っ取り早い解決方法は黙ることです。そうすると、発言権も偏っていってしまう。毎日のように「5分の会話をするかどうか」というのも、ここにつながります。

 これまでの業務やそのシステムの設計は、人間のメカニズムを知らない人が設計していて、人間を機械としてしか扱ってきていませんでした。