社外人材によるオンライン1on1(1対1での面談)サービスを提供しているエール(東京・品川)の取締役の篠田真貴子氏と、経営にまつわる様々な疑問を議論していくシリーズ。前回の新生銀行の工藤英之社長との対談に続き、今回は日立製作所フェローで、7月に設立された新会社ハピネスプラネット(東京都国分寺市)のCEO(最高経営責任者)に就いた矢野和男氏と「幸せ」について意見を交わす。
新型コロナウイルス感染症の拡大を機に広まったリモートワークや在宅勤務では、組織にいるからこその「幸せ」は感じにくくなってしまうのではないか。矢野氏であれば、何かヒントを与えてくれるかもしれない。
対談は前編、後編に分けて掲載する。前編は、矢野氏が主張する「データは未来予測に役立たない?」という主張について、読者の皆さんと考えてみたい。AI(人工知能)やデータの活用を研究してきた矢野氏は、いきなり「データで未来は予測できない」と断言。一体、どういうことか?

「未来を予測しよう」という考え方自体が間違っている?
篠田真貴子氏(以下、篠田氏):矢野さんの『データの見えざる手』(草思社)を拝読しました。とても分かりやすかったです。
矢野和男氏(以下、矢野氏):実は今も、「予測不能」という重要なテーマで執筆活動中です。今の社会は、予測不能な変化に正面から向き合っていないのではないかと思っています。
例えば「PDCA」という概念や、様々な仕事の仕方を標準化して横展開するという考え方では、変化は例外扱いですよね。でも、21世紀に入ってから、米同時多発テロや東日本大震災、そして重症急性呼吸器症候群(SARS)や新型コロナウイルス感染症など、毎年のように予測できない変化が起きています。変化はもはや、例外でも何でもありません。
「未来は知りえない」「未来は私たちが予測しているものと違う」ということをしっかり受け止めるべきでないかと考えています。

篠田氏:「未来は予測できない」ということですか? ずいぶんと言い切りますね(笑)。ただ、私たちはどうしても、データを未来を予測することに生かそうとします。特に組織においては、ルールを作るなどして予測不能な状況を可能な限り取り除こうとします。
矢野氏:確かにそうですね。でも、その組織の外では必ず変化は起こりますよね。
発想を180度変えて、「世の中は全て予測不能」だと思って準備する必要があると考えています。無理やり未来を予測して、「安全対策をこうしましょう」「投資をこうしましょう」としてきたこと自体が間違っていたのではないか、と私は思っています。
篠田氏:「予測不能」という大前提に立つと、何が変わるのでしょうか。
矢野氏:絶対にやってはいけないことだけははっきりしています。「今までこれをやってきたから」と考えて、前例踏襲を続けることです。
変化が起きているかもしれないけど、「昨日と同じようにしていいのだ」ということを正当化する仕組みはたくさんあります。ルールもそうです。例えば安全対策のルールなら、過去に事故が起きた時点を基準にして「再び事故を起こさないように」とルールを考えているわけです。
ただ、神様でもない人間が完全に予測できるわけはない。仕事というのは本来、「ルールを守ること」ではなくて、「ルールを廃棄すること」「上書きしてアップデートすること」ですよね。
篠田氏:一般的な仕事の概念とは真逆ですね。
仕事とは本来、ルールを破棄し、計画をアップデートすること
矢野氏:真逆です。
「計画」という概念も同じです。計画を作って、予算を作って認可して、執行する。そのプロセスには「責任」や「説明責任」という言葉も出てきます。「過去に作ったものに合っているかどうか」で、いいかどうかを判断することですよね。その結果、ますます変化に適応できなくなる。
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