組合は内だけでなく、外に目を

篠田氏:塩澤さんは三井物産労組で初の女性委員長ですよね。社員の価値観の多様化が進んでいるのが、三井物産の労組の活動が変わってきている背景にあるというお話がありました。労組でも、男性ばかりではなく、女性も活躍しているというのは、ダイバーシティーの観点からとても頼もしいと思いました。

エール取締役の篠田真貴子氏
エール取締役の篠田真貴子氏

塩澤氏:私たちの場合、専従執行部のメンバー6人の半分が女性です。

 新型コロナウイルスの影響で、在宅勤務が広がりましたよね。小学校も休校になって、組合員から私のところに「家で子供を見ながら働くのが心身ともに辛い」という声が届きました。

 私自身、夫が海外赴任中で4歳の息子を1人で面倒見ながら仕事をするという、いわゆるワンオペ状態だったので、そうした声には共感できました。正直、「これは辞める人も出てくるかもしれない」とも思いました。

 そこでアンケートを行い、定量データに基づいて会社と協議して「有給休暇を取得せずに業務中の中抜けができる」という制度を、かなり速いスピードで整えてもらいました。

篠田氏:データが大事とおっしゃっていましたが、それにはまずは共感力が大切だと思うのです。まずは直感的に問題意識に共感して、考えて、じゃあデータで調べてみようということになるのですよね。

 そういう意味で、組合執行部では、組合員の声に共感するためにも、ダイバーシティーがなおさら大事だなと思います。

塩澤氏:実は、中抜けの話は、MPU執行部の間でもいろいろな意見がありました。育児中でない人も同じように大変な環境で働いていて、多様な課題があった中、平等性も考慮してどのような施策を提案すべきか、相当議論しました。

 最終的には育児の有無に関係なく中抜けできる制度になりました。もちろん、子育て中の人からは「ありがとうございます」という感謝の声をたくさん頂いています。

 会社側にも、こうした在宅勤務に関する悩みの声は届いていたようですが、MPUのデータと提案によって会社のスピーディーな対応を後押しできたと思っています。

篠田氏:ここまで聞いてきて、組織の解散という危機を乗り越えて変革している途上なのだということがよく分かりました。活動の目標を戦略的に打ち出して、その結果も出始めているので、意欲のある人が執行部に入ってきてくれるのではないかと思います。

塩澤氏:今は相当、楽しい組織になったと思っています(笑)。人が集まってくることによって質の高い提案ができるようになるので、経営と一緒になって、会社を変えていけるという実感があります。

 大企業では、何かを変えたり始めたりするには、通常なら上司を何人も通さないといけない。でも、労組なら経営トップ層と直接話をする機会も持てます。

 労組が存在意義を発揮するには、労組側の取り組みだけではなく、会社側がどれだけの度量を持って労組の意見を聞いてくれるかがとても大切です。会社側が私たちの提案を聞いて、対等な姿勢で議論し、良い提案は取り入れる度量があるからこそ、MPUに人が集まってくるのです。

 私たちの場合、会社とゴールを共有できています。それが、MPUの活動にとってもプラスになっていると思います。

篠田氏:会社と社員が共に幸せに働ける環境を目指しているということを、お互いに確認できているというのは重要なポイントですね。

 これまでの労組は、対峙する相手は同じ会社の経営陣でした。しかし、今の時代、労組も会社の偉い人たちばかり見ていては組合員のニーズを見失う。だからこそ、会社の外の労働市場で何が起きているかということにも意識を向けなければいけないんですね。労組も、流動性が高まる大きな労働市場の中での存在意義を問われているという意味で、変わる覚悟が必要ですね。

 多くの労組が、組織率の低下などの課題に直面していると思いますが、労組の役割がなくなったというわけではないと思います。多様化する労働者のニーズを吸い上げる機能としては、むしろ役割は大きくなっている気がします。

(写真:的野弘路)
(写真:的野弘路)

【ご意見募集 会社と労組、すみ分けは?】

■[議論]人事部に替わってキャリア支援? 会社と労組の新たな関係

 前回に続き、労働組合をテーマにした三井物産労働組合の塩澤美緒委員長に話を聞いた記事を公開しました。

 キャリア支援に力を入れているという三井物産の労働組合。一見すると、人事部の業務とも重なる面もあるように感じますが、塩澤委員長は「しがらみがなく、エンゲージメントに純粋に価値を置いて提言できる」と語ります。さらに、「会社と組合は常に闘っているわけではない」とし、会社が提言を受け入れてくれる度量があるとも語っていました。

 会社と組合の関係性について、皆さんはどうあることが理想だと思いますか? ご意見を募集します。

この記事はシリーズ「篠田真貴子の「経営の“常識”にツッコミ!」」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。