篠田真貴子氏が経営にまつわる様々な疑問を投げかけていくシリーズ。前編に続き、三井物産労働組合(通称、Mitsui People Union ; MPU)初の女性リーダーとなる塩澤美緒委員長との対談の後編を公開する。

 2015年まで任意加入のオープンショップ制だった三井物産の組合は組織率の維持に追われ、2012年には執行部に人材が集まらないという事態に直面して組合の解散宣言をしていた。

 前編ではエンゲージメントを重視していることや、その背景に多様性があることを説明した塩澤氏。後編では具体的な活動内容について解説する。

対談する三井物産労働組合の塩澤美緒委員長と、エール取締役の篠田真貴子氏(写真:的野弘路)
対談する三井物産労働組合の塩澤美緒委員長と、エール取締役の篠田真貴子氏(写真:的野弘路)

篠田真貴子氏(エール取締役、以下篠田氏):「キャリア形成」や「成長実感」へのニーズは大きいという言葉がありました。こうした課題に対して、組合として具体的にどんな取り組みをしてきましたか。

三井物産労働組合委員長・塩澤美緒氏(以下、塩澤氏):上司と部下の1対1の面談「1on1(ワン・オン・ワン)」を会社に提案して、実現してもらったのは一つの成果です。キャリアを相談するひとつの選択肢として、上司は仕事ぶりや適性をよく知る身近な存在です。

 それから、私たち執行部の5人がキャリアコンサルタントの国家資格を取って、希望する組合員に対して1対1のキャリア相談を受ける取り組みも始めました。

篠田氏:キャリア相談って、一人ひとりの事情に合わせたサービスですよね。一方で、労組という立場上、組合員が等しく享受できないサービスを手掛けるべきではない、という意見はなかったのでしょうか。5人だけだと、マンパワーの問題で希望者全員に提供できるとも限りません。

塩澤氏:キャリア相談への潜在的ニーズは大きいのに、手を付けられていないという問題意識がありました。ならば、自分たちで実際にやってみようと。

 これまでに累計50人ほどに、延べ約100回のキャリア相談を実施しました。現時点では希望者全員に対応できています。もっと希望者が増えれば、一部外部のキャリアコンサルタントを起用することも考えています。

 三井物産労組の組合員は一般的な傾向と同様、「成長実感」や「キャリアの展望」がエンゲージメント向上のキードライバーとなることがアンケート結果から分かっています。この先も面白い仕事ができるか、必要とされる人材になれるかに関心がある人が多いのです。

 それであれば、キャリア相談はやったほうがいいに決まっています。「組合員のニーズに応えて活動を変化させる」というスタンスに対して、不公平感や不満の声は、今のところ聞こえてこないですね。

次ページ 会社と敵対しない労組って?