「解散宣言」後に組合が取り入れたマーケティング視点

篠田氏:解散宣言まであったのですか!

 当時の組合幹部の皆さんも、社員が感じる課題に取り組みたいという思いもあったけれど、オープンショップ制で求心力が下がっていく中では手を付けられなかったのですね。

 それから、労組の特色を最初に語ってもらった中で、「組合員のニーズに応じて活動内容を変える」という言葉がありました。今の全員加入が原則のユニオンショップ制なら、大変な思いをして活動内容を変えなくても組合員は確保できるため、そういう言葉や意識は出てこないのではないかとも思うのですが、なぜそういうやり方をしているのでしょうか。

塩澤氏:MPUの組織としての魅力を維持するためです。組合員は全員加入といっても、組合活動を運営する執行部のメンバーはボランタリーに集まる組織です。MPUに存在意義を感じ、そして執行部の活動にも魅力を感じてもらえるよう組織変革する必要がありました。

<span class="fontBold">塩澤美緒(しおざわ・みお)氏</span><br> 2008年三井物産入社。2013年インド三井物産に研修員として赴任。オーストラリアやサハリンでのLNG事業を担当した後、2018年三井物産労働組合執行部。20年三井物産労働組合創設以来初の女性リーダーとして第59期中央執行委員長就任。(撮影:的野弘路)
塩澤美緒(しおざわ・みお)氏
2008年三井物産入社。2013年インド三井物産に研修員として赴任。オーストラリアやサハリンでのLNG事業を担当した後、2018年三井物産労働組合執行部。20年三井物産労働組合創設以来初の女性リーダーとして第59期中央執行委員長就任。(撮影:的野弘路)

篠田氏:塩澤さんは「エンゲージメントを包括的に捉える」とおっしゃっていました。自分たちも顧客である組合員のことをよく分からないといけないということで、調査などをしてマーケティング的に見ているということですよね。

 それから、「データを重視している」ということもおっしゃいました。少なくとも私の知っている労組では、データ重視という発想はあまりないように思います。「こうすべきだ」という「べき論」や、理念のようなものに頼っている印象があります。

 なぜ、データを重視しているのですか。

塩澤氏:一つは、我々は人事分野を扱うことが多いのですが、その人事の分野は「経験と勘」といわれることが多かったのですよね。それが、人事も「データを取りましょう」というのが一般的なトレンドであり、私たちMPUもそうした視点を取り入れている面があります。

 もう一つは社員のダイバーシティー(多様化)が進んでいるので、我々としてもニーズを肌感覚だけではキャッチできなくなっているという背景があります。

 ベアであれば、組合員全員にとって「上がったほうがいい」という点ではシンプルな命題です。しかし働き方について「テレワークをしたほうがいいか」と聞くと、属性によって回答は様々で、マネジメント層にとっては対応に苦慮するという意見もあります。例えば、共働き世帯や育児世代がテレワークやフレックスを強く支持しているとして、そのニーズの強さに加え、支持する理由や導入後の期待する効果までデータに基づいて経営と話していくために、実態を明かしたいという理由もあります。

 もはや個々のヒアリングでは把握しきれなくなっているので、私たちも意思決定するために数字によって全体像を把握することが必要なのです。

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