篠田真貴子氏が経営にまつわる様々な疑問をキーパーソンに投げかけていくシリーズ。今回は大和証券グループ本社の田代桂子副社長と「SDGs(持続可能な開発目標)」について議論する。

 SDGsは2015年に国際連合で採択され、貧困撲滅や気候変動対策など17の目標が設定された。最近SDGsという言葉をよく耳にするものの、企業活動との関連を具体的にどう捉えるべきなのか、いまひとつ釈然としない人も多いだろう。篠田氏も「SDGsという言葉がファッションのように流布していて、本質をよく分かっていない人も“SDGsバッジ”だけを付けている気がする。投資家が求めるESG(環境・社会・企業統治)投資とも重なる概念があり、自分も含めて本質がよく分からない人が多いのではないか」という問題意識を抱えていた。

 田代氏は2020年に大和証券グループ本社初のSDGs担当役員に就任。ESG投資も含め、日本のSDGsと企業との関係について篠田氏が話を聞く。ぜひ、皆さんもコメント欄でSDGsについてのご意見をお寄せ下さい。

対談する大和証券グループ本社副社長の田代桂子氏(右)とエール取締役の篠田真貴子氏(左)(写真:伊藤菜々子)
対談する大和証券グループ本社副社長の田代桂子氏(右)とエール取締役の篠田真貴子氏(左)(写真:伊藤菜々子)

篠田真貴子氏(エール取締役、以下、篠田氏):今回はSDGsをテーマに、大和証券グループ本社の田代桂子・執行役副社長に話をお伺いします。

 大和証券グループは中田誠司社長を委員長に据えた「SDGs推進委員会」を設置していたり、2020年には田代副社長がSDGs担当に就いたりしています。それは、「はやり廃り」ということではなくて、SDGsに本気で取り組んでいこうという意思表示だと思います。

 しかし、私も含め、そもそも「SDGs」がどんなものなのか、企業活動にどう位置付けるべきものなのか、明確に理解していないビジネスパーソンも多いと思います。失礼な言い方をして申し訳ありませんが、ジャケットにSDGsのバッジを付けている人を見ても、その人やその会社が、どこまで本気でSDGsのことを理解し、本気で取り組んでいるのか、信用できないというか(笑)。

 そこで、まずは「SDGs」という言葉について、田代さん、そして大和証券グループとしてどう捉えているのかをお聞かせいただけますか。

田代桂子氏(大和証券グループ本社副社長、以下、田代氏):SDGsは私たちがいままでやってきた取り組みについて、タイトルを付けてくれたなという印象を持っています。

 例えば、SDGsという言葉が生まれる前の2008年、私たちは個人投資家向けに「ワクチン債」の取り扱いに乗り出しました。これは当時、日本で初めての取り組みでした。より多くの発展途上国の子供たちが予防接種を受けるための資金を調達できる仕組みです。

 これはグループ内である若手が「やりたい」と手を挙げたのがきっかけでした。私はその頃、オンライントレードを担当していたので、会社全体でなく、「インターネットで販売してみよう」という話をしました。ただ、当時社長だった鈴木茂晴・日本証券業協会会長がワクチン債のような分野に関心を持っていて、「会社全体でやるぞ」と言って実現しました。

 その頃、女性に活躍してもらうためにワークライフバランスを推進していました。女性も男性も同じように働けるように、ということで、2007年から夜7時前の退社を進めていたのです。

 いずれも、社会課題の解決に大和証券グループとしてできることを考え、取り組んだものです。そのようなことをしていたら、「SDGs」という便利な言葉が後からできた、という感覚ですね。ワクチン債も働き方改革も、SDGsが掲げる、健康と福祉の追求や働きがいの実現などの目標に位置付きます。

 ただ、SDGsが掲げる項目の中で、私たちが取り組んでいなかったことも、もちろんあります。その部分についても、「取り組まないといけないよね」と比較的素直に受け入れられました。これまでワクチン債など社会的課題に取り組んできた土壌があったからだと思います。

篠田氏:私から見ると、「なぜSDGsが必要なのか」については、国連が採択したアジェンダ(行動計画)(日本語訳)の前半、よく用いられる17の目標が示されている前の部分に分かりやすく書いてあると思います。

 限りある地球資源の中で、人類が仲良く平和に暮らしていかないといけない、ということですよね。なかでも、何度もキーワードのように出てくる言葉に「ディーセント・ワーク」(Decent Work、働きがいのある人間らしい仕事)というものがあります。

 どういう境遇であっても、人間らしく働き、人間らしく暮らすということがSDGsの根っこにあるということがよく分かります。アジェンダを読んでいると、従来は一部の国や公的機関しか取り組んできていなかった問題に、みんなで真剣に取り組まないと「しゃれにならない」という切迫感を感じられるのです。

田代氏:そうですね。

 その前の2000年に国連で採択された「ミレニアム開発目標(MDGs)」のときには「自分には関係ないや」という人がいたかもしれません。SDGsはみんな関係あるからという意味合いを含んでいることで、今、広がりを見せている気がします。

 それから、環境問題が大きなテーマになった20年のダボス会議で、出席したアル・ゴア元米副大統領が注目されましたよね。

 ゴアさんと言えば2006年に環境問題を取り上げた映画「不都合な真実」が話題になりましたが、それ以来あまり注目されていなかったように思います。けれども、再び注目を集めるようになった。一昨年、昨年からこうした環境問題をはじめとする社会問題が急速に注目されるタイミングが来ていると感じています。

(写真:Handout / Getty Images)
(写真:Handout / Getty Images)

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