全4149文字

感染症という新たなリスクと隣り合わせになった社会で暮らす際のマナーを考える本連載。「[議論]withコロナの新マナーとは? 疑問や体験大募集」で募集した電車やエレベーター、オフィスでの振る舞いについて、日本サービスマナー協会講師の三上七恵さんと一緒に考えてみた。

(写真:PIXTA)

 まず、電車内でのケース。前回記事で、電車内でマスクを着用して会話をする男女に対し、別の男性が声を上げて注意した場面を紹介した。日本サービスマナー協会講師の三上七恵さんは、「話し声で飛沫が飛ぶという情報は広まっており、マスクをしていても話し声は小さめにした方がよい」と話す。

日本サービスマナー協会講師の三上七恵さん

 電車内は多くの人が乗り合う閉じられた空間であり、感染症リスクを考えれば乗客にストレスがかかりやすい状況といえる。特に通勤・退勤時は肩が触れ合う以上に混む場合も少なくないので、気遣いが求められる。

 三上さんが出会った「すてきな例」を紹介しよう。電車内でマスクをした女性が、くしゃみの際にハンカチを出して口元に重ねた。周囲の人を気遣ってくしゃみの音を抑えたようだ。マスクをしていたので、一定程度は飛沫の拡散を防げたはずだが、せきやくしゃみの音に敏感になる人がいるだろうと、音にも配慮した例というわけだ。

 「感染を防ぐという考え方からすれば、不要だったかもしれない。だが、マナーは『相手を不安にさせない、心配させない』という観点から考えた方がいい」と三上さんは指摘する。

 マスクの上にハンカチを当ててくしゃみの音を抑えるケースは、ほかにもある。ある会議での出来事だ。

 医療機関に勤める事務員が、「アレルギーがあるのでくしゃみが出たらすみません」とあらかじめ断り、マスクの上にハンカチをしてくしゃみの音を抑えていた。事務員は「手をふく用」と「くしゃみ用」の2つのハンカチを用意していたという。三上さんは、「音まで気を使う意識の高さは、普段から感染リスクに気をつけて生活しているんだろうなと、周囲の人を安心させる」と話す。

「強制しないマナー」で伝えられる安心感

 今回の連載企画でいう「マナー」は、「相手を不快に思わせないことを目的とした相対的な基準」と定義したい。違いは、ルールと比較するとわかりやすい。交通ルールなら、横断する歩行者が全くいない道でも、赤信号を車が突っ切ることは許されない。絶対的な基準を明文化して、交通の効率性や安全性を高めることが目的だからだ。

 前回の記事では、

 「頼むから勝手に『マナー』にしないでください。(中略)行政は、恐怖をあおっているだけです。売名行為の教授の言うことを信じてはいけません」(科学者)

 「マナーという柔らかい言葉にくるんで、メディアも一緒に、異分子排除。(中略)新マナーだ、とかいって押し付けるな」(Tomoyukiさん)

 といったマナーを強調すること自体に批判的なコメントが少なからずみられた。緊急事態宣言下では、感染症リスクに神経質になった人々の間で、感染症対策に鈍感な人々に対して私的に注意したり制裁を加えたりする「自粛警察」と呼ばれる行動が一部で広がった。窮屈なルールを強いる社会が、「マナー」という言葉から連想されたようだ。

 ただ、今回の連載記事で目標にしたいのは、様々な意見やケースを共有して、withコロナの時代に人々が気持ちよく社会生活を送れるような行動とはどのようなものかを、改めて考えることだ。