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 予約の伸び方で見た場合、42施設のうち25ほどが例年の同じ時期に比べて好調に伸びている。もっとも、背景には新型コロナウイルスの感染拡大によってキャンセルが4月、5月に一気に出たことなどから、今年は夏の予約が全体的に遅れている事情もある。例年ならばこの時期に満室になっている施設も今年はまだ空きがあり、この時期に例年以上のペースで予約が入ってきている面がある。

 最終的に7月、8月について、どこまで売り上げが回復するかはまだ見えないが、このペースを維持すれば予約が戻ってきた25施設の中には昨年とほぼ同等のところも出てくると思う。通期がどうなるのかについて考えると、4月、5月は通常なら8割、9割稼働していたことや、感染の第2波の影響も考えられることなどから、4月、5月に失った分を取り戻す余裕はなく、対前年で売り上げがマイナスになることは避けられない。

 第2波は18カ月プランを立案した段階から、必ず来ると思っている。特にインフルエンザなどの流行する冬、例えば11月ぐらいに第2波がきてもおかしくないし、そう覚悟して対策をしなくてはいけない。その先も考えれば、ワクチンや治療薬ができるまでは短期的に必要のない投資はしないほうがいいだろう。

星野氏が社員向けに書いた「18カ月プラン」のイメージ図

マイクロツーリズムでサービスはこう変わる

遠方や海外への旅行市場の回復遅れが見込まれる中、地元客に保養目的などで小さな旅を楽しんでもらう「マイクロツーリズム」を提唱しています。これまでとどのような違いが出てくるのでしょうか。

星野:マイクロツーリズムはまったく新しいことをするわけではなく、今までの観光の中にもその要素はあり、ある程度やってきたことだ。しかし、力を入れていくには地元客に向けてアジャストすることがやはり大切になってくる。

 振り返れば日本の観光業は、たとえ施設から遠くとも市場の大きな大都市からの集客に一生懸命に取り組み、15年ほど前からは中国、米国、オーストラリア、ヨーロッパともっと遠い海外からの集客も図ってきた。そして星野リゾートの場合、サービスや食事は遠方からの宿泊客に合わせてデザインしてきた。食材の地産地消や地域らしい文化を強調してきたのはこのためだ。その分、地元客の比率は落ちていた。地元の人も近くの温泉地に行くのではなく、もっと遠い場所、あるいは海外に行きたい人が多かった。

 しかしマイクロツーリズムでは地元客が宿泊するのだから、例えば地域らしい文化を伝えても地元客にとっては非日常感はなかなか得られない。食事の内容も地域の人たちはその土地らしい食事よりも普段地元で食べられないものを食べたいニーズがある。私が子供の頃は山の温泉旅館ならば、食事に伊勢エビやアワビを出して当たり前だったが、訪問する地域の人たちにとってはそれがぜいたくな食事だったからだ。

 また、これまで文化体験として地域の説明に取り組んできたりしたが、地元客ならば顧客のほうが詳しいかもしれない。すると滞在中のアクティビティーなども変えていかなければならない。アジャストとはそういう取り組みだ。予約の動向からも明らかなように、新型コロナウイルスの感染拡大によって、地元客は海外や国内の遠いところに行くのが難しくなり、近くで旅行したいというニーズが出てきている。その意味ではマイクロツーリズムは、宿泊施設と顧客、両方のニーズの変化に合致した取り組みだ。

 マイクロツーリズムではこのほかの点でも取り組みが変わってくる可能性がある。ニューヨークから箱根に年2回来る人はなかなかいないが、地元客ならばリピートしてもらえる可能性が高く、その対応を考える必要がある。地元の方々なのでむしろこちらが学べる部分もたくさんある。地域の方々に地元を散歩して魅力を再発見してもらい、星野リゾートも地元客から学べばコロナ後には地域の観光の力をより強くすることもできるだろう。

 例えば、軽井沢は予約がすごい勢いで戻っているが、東京周辺から新幹線で1時間、車で2時間ほどのため、首都圏にとってのマイクロツーリズムといえる。そういう意味では首都圏周辺の施設は有利だが、界 長門(山口県長門市)は福岡、広島、山口というエリアだけで集客して運営が好調に推移しており、さまざまな可能性がある。マイクロツーリズム用のプランは設定しているが、単価はあまり変えていない。そもそも4月、5月に予約が落ちたのは「料金が高いから行かない」のではなく、「コロナが怖いから行かない」ためだ。料金を下げたからといって、その分の需要や利益が増えるかといえばそんなことはない。