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なかなか先が見えにくい状況です。

星野:星野リゾートでは、ワクチンや治療薬ができるまでの1年から1年半は何らかの影響が残るだろうと考えてきたが、それに合わせて臨む覚悟を決めている。

 東京オリンピック・パラリンピックが来年できるのはいいことだと思いながら、インバウンドも含めた完全回復に向けて「1年半計画」を立案している。具体的には、1年から1年半かかるのを前提にして、この間しっかり生き残るにはどうしたらいいかを全部逆算。それぞれの月に何をするのかに落とし込んでいる。そのためにはどんなことが起こってくるのか、需要がどう推移するかを予測することが重要だ。

 大方針として、先送りできるコストは先送りする。中長期に計画してきたプロジェクトはいったん中止している。もう1つの大方針が人材の維持だ。星野リゾートはスタッフの質が会社の競争力そのもの。復活後に人材をそろえ直していてはパフォーマンスを取り戻すのに時間がかかる。市場が復活するときに備えて、人材の維持はすごく重要だ。

 資金面では星野リゾートは所有している施設がほとんどなく、運営に特化している。大きな借り入れがあるわけでなく、それまでマーケットは好調で施設数を伸ばしてきたので、蓄えは相応にある。これを1年から1年半の計画の中で使い果たしてもいいから、とにかく生き残る策を立てる。

 観光市場について、新型コロナウイルスの感染拡大については、医療崩壊を起こさないことが重要だし、社会の動きとしてはやはり感染者数が拡大するときには自粛する。ただし、経済活動を1年から1年半すべてとめると誰も生活できなくなる。

 だから、ワクチンや治療薬ができるまでは、感染者数が拡大しない範囲で、医療崩壊をまったく起こさない範囲で、経済活動を適度なレベルに維持する状態が続くだろう。当面は自粛期間と緩和期間を繰り返していくことになる。旅行業は自粛期にはダウンし、緩和期にも一気に完全に戻るわけではないが、少しは事業環境が回復する。こうした繰り返しだと思っている。

三密のない滞在を提案する運営ノウハウを作る

これまでの常識だけで乗り切るのは難しそうです。

星野:災害が過ぎ去るのを待てばいいという状態ではなくて、「新ノーマル」が誕生したと見ている。これまでのやり方で問題解決するのでなく、今の状況は新ノーマルに入っているという認識が大事になる。競争力を維持することを基準に財務のあり方を考えるし、マーケティングは顧客が旅を選ぶ基準が変わるという仮説を立て、市場調査で検証する。緊急事態宣言が完全解除でなくとも少し緩和されたとき、「旅行についてはどうお考えですか」といったことを尋ねる調査をしたい。今のところ5月の中旬くらいに実施を予定している。

 感染を拡大させない範囲で、国内市場が少しずつ需要を戻したとき、大切なのは密集・密接・密閉の3つの密を避けることだ。顧客に安心してもらえるサービスをどんどん追加しながら、三密のない滞在を提案する運営ノウハウを作る。もちろん、観光が感染を拡大するといったことは絶対あってはいけないので、今までよしとしていたことも、変えていかなければいけない。

 海外のメディアも見ているが、メンタルヘルスに新型コロナが及ぼす影響が大きな課題になっている。1年から1年半という長い期間になってくるし、コロナとの闘いにはメンタル面の健康を維持することが大切だ。新ノーマルにおいて観光が貢献できることを、考えなければいけない。

政府の施策として、期待することはどんなことでしょうか。

星野:今の状況が収束したときに観光も含めた需要を喚起する手法として、クーポン券が検討されている。本当にありがたいが、クーポン券の出し方について2つ要望がある。

 1つは予約の方法だ。クーポン券はこれまでもあったが、従来は予約を旅行会社経由に限定していた。このため、顧客は既に行った予約を一回キャンセルして予約を取り直していて、現場に大きな混乱が起こった。自社での予約に力を入れている施設に著しく不利になるので、幅広い予約に対応できる形にしてほしい。

 もう1つが需要の平準化だ。これまでのようにクーポン券を使える期間を限定して一気に需要を喚起しようとすると、需要が集中するため混乱が生じる。このため、短期的に需要の拡大を図るのは業界のためにならないし、顧客のためにならないし、場合によっては感染の復活につながってしまうかもしれない。むしろお願いしたいのは、長期にわたって有効な形にするとか、県や地域によって使える時期を変えるとか、平日だけ使える形にするとか、需要を平準化するクーポン券だ。このほうが効果が上がり、観光産業の雇用を守ることにつながるはずだ。

難しい経営判断が続くことになりそうです。

星野:5年後に2020年を振り返ると、今の判断が正しかったかどうかの回答が出ているが、今はそれがわからない。あのときなぜ、こうした判断ができなかったんだろうと思うことも出てくるだろう。