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旬の「あの人」と対話ができる。参加者同士でつながれる──。日経ビジネスは、記事やイベント、動画を組み合わせた新しいコンテンツ「Raise LIVE」をお届けします。あなたも、このコミュニティーの一員になりませんか。

金曜日は副編集長の中沢康彦が「星野リゾートの方程式2020」と題した連載と、イベント「学生・若手に!『星野リゾートの教科書』現場・実践編」を担当します。イベントでは「星野リゾートの教科書」「星野リゾートの事件簿」の著者でもある中沢が星野リゾートの担当者に現場の取り組みについて「公開取材」します。

日経ビジネス1月20日号では、ケーススタディー「星野リゾート、成長持続に欠かせない『脱カリスマ』」を掲載しています。合わせてお読みください。

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 長野・軽井沢発祥のリゾート運営会社、星野リゾートの成長ペースが加速している。国内だけでなく海外でのプロジェクトも増加傾向にある。成長のメカニズムやそれを支える仕組みをシリーズで解明していく。

 今回は施設のブランドの決め方や敷地内の建物配置といった、ややマニアックと思われがちなところから、成功の方程式の解明を試みる。視点を変えて立体的に分析することでリアルな強さが見えてくる。

リゾナーレ那須のアクティビティセンター「ポコポコ」内の遊具上でほほ笑む星野リゾート代表の星野佳路氏(写真=栗原克己)

「いっしょに登ってみませんか」

 星野リゾート代表の星野佳路氏はこう言うと、天井まで張りめぐらされた3層のネット式の遊具をするすると登り始めた。あっという間に6.5メートルの高さのてっぺんに到着。星野氏は「ここにはやはりこれが必要だ」と、いたずらっぽい笑みを浮かべた。遊具の床の部分にはボールを多数集めた「ボールプール」もあり、ここでは小さな子ども連れもすぐに楽しめそうだ。

 この遊具を備えるリゾナーレ那須(栃木県那須町)は2019年11月、星野リゾートによる運営を開始したばかりの施設だ。4万2000坪の広大な敷地には、那須の木々をテーマに緑を基調とした室内の本館と那須に咲く花々をテーマに赤を基調とした室内の別館があるほか、温泉もある。既存施設に改装を加えて運営を始めた。

 実はこの施設は前の運営会社の時代、那須周辺においては有数の高級施設として一定の知名度を持っていた。しかし、星野リゾートはこれを改め、ファミリー向けとして施設を運営することを選択した。なぜ、あえてターゲットとする顧客層の変更に踏み切ったのだろうか。まずはブランディングの視点から検証してみよう。

ブランド選定にはいろいろな要素が絡む

 星野リゾートには施設の特徴などに応じた5つのブランドがある。具体的には、最高級リゾートの「星のや」、温泉旅館の「界」、ファミリー向けの「リゾナーレ」、都市観光の「OMO」、若者らをターゲットにした「BEB」に分かれており、ブランドごとにターゲットとする顧客の利用目的や価格帯に違いがある。全体の戦略はもちろん共通しているが、細かな点においてはブランドごとの戦略に特徴がある。

 一方、星野リゾートのブランディングがユニークなのは、無理にブランドに組み込まないことだ。これは再生案件などの場合、設備面などから5つのブランドに収まりきらないケースがあるからだ。「そのほかの個性的な宿泊施設」と位置づけ、それぞれ固有の施設名を持つ。連載に登場した奥入瀬渓流ホテル(青森県十和田市)などがこのケースだ。

 ではなぜ那須の施設はファミリー向けのリゾナーレになったのか。

 星野氏によると、ブランドの決定にはさまざまな要素が関係してくる。

 1つは施設の特徴だ。那須の場合、それまでの運営形態から最高級リゾートの「星のや」にすることも検討したが、建物は当初からの施設に加えて増設された部分などもある。全体の統一感などの点から、星野リゾートはむしろ別の可能性を模索すべきだ、と判断した。

 温泉を備えていることから、温泉旅館の「界」ブランドという選択肢も考えられた。界は収益性も客単価も高いが、星野リゾートは那須のある栃木県内で既に「界 日光」「界 川治」「界 鬼怒川」(いずれも日光市)という3カ所の界を運営している。界ブランドの成長性を考えたとき、ブランド全体におけるバランスという視点も必要になってくることなどから、最終的に星野リゾートは界を選ばなかったようだ。

 家族向けの「リゾナーレ」にふさわしいかどうかを考える場合、大きなポイントになるのはメインのターゲットであるファミリーの訪問のしやすさだ。例えば、先に運営しているリゾナーレ八ヶ岳(山梨県北杜市)、リゾナーレ熱海(静岡県熱海市)はともに市場が大きい首都圏から近く、車で気軽に訪問しやすい位置にある強みがある。

 首都圏からの位置という点においては、那須もリゾナーレの条件に合致する。また那須は首都圏の北側に位置しているため、八ヶ岳や熱海と方角が違い、差異化しやすい利点もある。

リゾナーレ那須のアクティビティセンター「ポコポコ」

 現在は運営していないが、星野リゾートは以前、三重県の高級施設をファミリー向けに切り替えて実績を上げた経験もある。さらにいろいろなポイントから比較検討し、那須をリゾナーレに加えることが決定した。

 星野リゾートは施設ごとにコンセプトを定め、それに従ってサービスなどを組み立てていく。コンセプトは「泊まってもらう理由」というべきものであり、目指す方向を明確にしながら、スタッフのベクトルを合わせて取り組む。

 リゾナーレという方向性が決まり、コンセプトをつくるうえでポイントになったのが施設の周囲の風景だった。