
前回は、終身雇用と呼ばれる長期雇用に象徴される、いわゆる日本型雇用システムの良さはどこにあったのかを振り返った。取材したのは、労働経済学が専門で「希望学」の研究などで知られる、東京大学社会科学研究所の玄田有史教授。玄田教授は、労働経済学の大家で2019年に亡くなった法政大学名誉教授の小池和男氏が、現場の従業員による「異常と変化(不確実性)への対応力」こそが、日本型雇用システムの強みであると主張していたことを紹介。これまで日本型雇用システムの中で経験を積んできたミドル・シニア層の社員にはその力が備わっているはずで、その力を引き出すことができれば、組織が活性化する「希望」を見いだせるのではないかと語ってくれた。

今回は、前回で触れられなかったポイントを1つ、捕捉しておきたい。玄田教授はミドル・シニアが力を発揮するためには、「ウィークタイズ(Weak Ties)」をもっとつくっていくことが重要と語ってくれた。ウィークタイズとは、文字通り人と人との「ゆるいつながり」のことだ。「自分の知らない情報や経験を持っている人とゆるくつながることで、新しいヒントや刺激を得ることが、希望を見いだす上でとても大切だ」(玄田教授)というのである。
ウィークタイズの反対が「ストロングタイズ(Strong Ties)」。強固なつながりによって成り立っており、そこから抜けると“裏切り者”と言われるような組織だ。日本型雇用システムによって転職がしづらい旧来の日本企業といってもよいかもしれない。
玄田教授は、「ストロングタイズは組織に団結力を生み、組織に属する個人には安心感を与えるが、イノベーションにはつながりにくい」と話す。ストロングタイズの組織は、モノカルチャーで同質的な人材ばかりになりがちで、あうんの呼吸で物事が動く。その結果、組織に属する個人は自分が何をしてきたのか、何をしたいのか、この連載でも取り上げた「What」を語らなくなるという。
「ストロングタイズの組織の中にいたら、これまでどんな仕事をしてきたのか、同僚に熱く語るようなことはあまりない。だが、たまにしか会わないウィークタイズでつながった知人には、自分のことをしっかり語れないと、興味を持ってもらえないし、また会おうという気になってもらえない。ウィークタイズの中で自分のことを語り、『それってどういう意味』と聞かれるなどの経験を通じて、『こういうことが周囲から評価されるのか』と気付く。その積み重ねが、人生を切り開いていく上でますます重要な世の中になっている」(玄田教授)
「終身雇用崩壊」によって、日本型雇用によって実現してきた企業内の強固な結びつきは、これまでのようには維持することができなくなる。これまでも、副業などによる「越境学習」の大切さを指摘してきたが、1つの組織の中に閉じこもらず、社外の人的ネットワークを“ゆるく”つくっていくことが必要だという指摘だ。
「転職でも副業先探しでも、一番大事なのは、『あなたはこれまで何をしてきたのか』と問われたときに、相手に『いいね、うちのメンバーになってほしい』とか、『あなたみたいな方がいると若手にいい刺激になるような気がする』とか、そう思ってもらえるかどうかだ」と玄田教授。ウィークタイズを日ごろから広げていく努力をして、自分を語り、自分の強み、魅力に気付いていくことが大切だという。
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