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日本型雇用は「自分のやりたいこと」を表現させない

 鵜澤氏は、「工場のように経験や年齢とともに習熟度が上がっていく職場もあるが、最大の問題はホワイトカラーの“学ばない問題”」と指摘した。既に、ミドル・シニア層の賃金はかなり抑制されてきているものの、外資系企業の社員と比べると日本企業の社員は自ら学ぼうという意欲が乏しく、生産性の伸びしろが小さいことが経営側からは問題視されているという。

イベントは渋谷のShibuya Open Innovation Lab(SOIL)で開催した(写真:DreamMovie)

 島田氏は、スライドに映し出された日本型雇用の賃金モデルを示した「ラジアー理論」の概念図を踏まえて、「この構造はよく理解しているが、なぜ、横軸が年齢なのかと思う。かつて働いていたGEも今いるユニリーバも、横軸は『責任範囲』。Role & Responsibility(役割と責任)が明確に定義されている」と、考え方の違いを説明した。外資系では、一人ひとりがプロフェッショナルであることを前提に雇用されているということだろう。

 連載第3回「終身雇用が崩壊すると『多様性』と『格差』が広がる?」でも、従来の日本型雇用が崩壊した先に待ち受ける雇用のあり方として、役割と責任を明確に定義したジョブディスクリプション(職務定義書)に沿った「ジョブ型」の雇用が広がる可能性を指摘した。ならば、そのような雇用モデルに対応するために、日本人はどのように学んでいったらよいのかという記者の問いに対して島田氏は、「日本人の能力が劣っているとは決して思わない。むしろ考えが深く、イノベーティブで、チームワークもある。ただ1つ欠けていることがあるとしたら、『遠慮をしすぎ』で『表現をしない』ことだ」と答えた。

 これまでの日本型雇用の問題点は、上司に忖度(そんたく)して、自分のやりたいことや考えを表現しないことを助長する構造にあるという見方だ。「外資系では新人の頃から、『あなたは何がしたいのか』とプロフェッショナルとして問われる。それが、大きな違いではないか」と島田氏は言う。

 ただ、日本企業の人事の意識も変わってきているようだ。鵜澤氏は、「社員に学びを促す取り組みについては、これまで『人材開発』や『人材教育』という言葉が使われてきた。しかし、『開発』『教育』という言葉は企業目線。これでは社員が受け身になってしまうということで、最近では『ラーニング』という言葉が使われ始めている。一番大切なのは、個人が自分から経験を通じて学びをつかみ取るという姿勢に変わることだ」と話す。

 島田氏も鵜澤氏の意見に賛同する。映画「スター・ウォーズ」でCGモデラーとして活躍する日本人の成田昌隆氏が、45歳で一念発起して証券会社から脱サラして、独学で学んだCG技術を生かして本当にやりたかった仕事に就いたという事例を紹介。「好きこそものの上手なれ、というのは絶対にある。年齢に関係なく没頭できることをいかに活用するかが学びにつながる。MBA(経営学修士)など仕事に使えるスキルを身につけようという努力もいいが、仕事に直接関係なくても、夢中になれることは何かを知ることが大切だ」と話す。

 「会社側も社員に対して、『自分で学んできてください』というメッセージを一方的に発信するだけでは、社員は『何を学べばいいのか』と戸惑ってしまう。むしろ、『あなたは何に没頭できますか』『それをするには何が必要ですか』という未来を見せるような対話をしていく責任がある」(島田氏)