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「おじさん」だけの問題ではない。企業は変化対応が遅れた

 まず、議論の前提として、なぜ今、経済界から「終身雇用は限界」というメッセージが発信されているのか、鵜澤氏に聞いた。鵜澤氏は、「これまで何度も“雇用調整”という名の下に組織再編や早期退職制度が実施されてきた。今回、明らかに違うのは比較的業績がいいのに雇用調整をしていること。業績悪化に伴う緊急的な対応ではなく、恒常的なものだ」と指摘する。

鵜澤慎一郎氏
EYアドバイザリー・アンド・コンサルティング パートナー
EY Japanにおいて、国内140人の人事組織コンサルティングサービス事業責任者兼アドバイザリー部門の経営会議メンバーを務める。20年以上の人事変革経験を持ち、専門は人事戦略策定、HRトランスフォーメーション、チェンジマネジメント、デジタル人事など。 グローバルコンサルティングファームのHRトランスフォーメーション事業責任者やアジアパシフィック7カ国のHRコンサルティング推進責任者経験を経て、2017年4月より現職(写真:DreamMovie)

 「終身雇用は限界」というメッセージが経済界から発信されたのは2019年5月。くしくも、経団連の中西宏明会長とトヨタ自動車の豊田章男社長が同時期に同様の発言をし、それ以降「終身雇用」や「年功序列」といったキーワードに象徴される日本型雇用モデルの見直しの必要性が、経済界から盛んに発信されるようになった。これについては、雇用モデルの改革を推進していくための「世論を形成し、地ならしをしようとしているという見方もできる。大企業の人事部にとって、この流れは特にサプライズではなく、改革の好機と捉えられている」(鵜澤氏)と分析した。

 その上で鵜澤氏は、「強調しておきたいのは、今回の問題はミドル・シニア社員の出口の問題、いわゆる“働かないおじさん”問題として捉えられがちだが、それだけではない。新卒一括採用や年功序列型の賃金モデル、ジョブローテーションによるゼネラリスト育成といった、これまで日本企業がうまくやってきた入り口から出口までの人材マネジメントのすべてが機能不全になっているのではないかということ」と捕捉した。

島田由香氏
ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス 取締役人事総務本部長
1996年慶応義塾大学卒業後、パソナ入社。2002年米コロンビア大学大学院にて組織心理学修士取得、日本GEにて人事マネジャーを経験。08年ユニリーバ入社、14年4月から現職。 学生時代からモチベーションに関心を持ち、キャリアは一貫して人・組織に関わる。日本の人事部「HRアワード2016」個人の部・最優秀賞、「国際女性デー|HAPPY WOMAN AWARD 2019 for SDGs」受賞。米国NLP協会マスタープラクティショナー、マインドフルネスNLPトレーナー(写真:DreamMovie)

 一方、外資系の人事畑を中心にキャリアを積んできた島田氏は、「終身雇用は限界」という経済界のムードについて、「今さら何を言っているのか、というのが正直なところ」と感想を述べた。

 そして、「私はいつも、愛を込めてあえて“オッサン”と呼んでいる。私自身、たくさんのオッサンにサポートしていただいてきたし、薫陶も受けてきて、今があると思っている」と、イベントに参加しているミドル世代の男性に語りかけた。「人事の立場としては性別も年齢も意識しないようにしている。しかし、日経ビジネスが『新50代問題』という特集を組んだように、オッサン本人にとってはとても脅威で不安な状況かもしれない。終身雇用が成り立っていた時代と経済構造が大きく変わっている。かつては働く時間の長さがスキルの習熟度を表した。しかし、それは工場モデルで、今はテクノロジーが進化し、ジェネレーションも価値観も、世界は大きく変わっている。企業はもっと早くその変化に対応すべきだったが、それが遅れたので今、そのひずみが出ている」と環境が大きく変わっていることを強調した。

 その上で島田氏は、「これをチャンスと見るかどうかで、個人の生き方の方向性ががらりと変わる」と、変化をポジティブに捉えるべきだと訴えた。

 では、従来の日本型雇用モデルが終わるという前提に立ったとき、個人はどのような意識でキャリアを築いていったらよいのだろうか。前回の記事「終身雇用崩壊で『What』なき個人は生きづらい社会に?」では、人生100年時代にキャリアを主体的に築く上で学び続けることの大切さを考えたが、イベントでも「What」、つまり自己実現を果たすために何をしたいのか、本当に好きなことは何かを、どうやって見いだしたらよいのかが大きなテーマになった。