会社にキャリアをゆだねてきたツケ

 立教大学経営学部の中原淳教授は、「年齢に関係なく、常に自分を磨き続け、社内外を問わず自分が貢献できる場所を見つける努力をしていかないと、どんどん厳しくなる」と指摘する。従業員が70歳になるまで雇用する努力義務が企業側に発生しようとしている中で、個人も“使える”人材であり続ける努力をし続けないと、組織の中で「働かないおじさん」といったレッテルを貼られ、生きづらくなる。それは、個人にとっても、企業にとっても不幸な状況だ。

 ただ、中原教授は「ぶら下がり願望からどう抜け出すかは、年齢に関係なく深刻な問題」と懸念する。賃金カーブの修正を軸にした日本型雇用モデルからの脱却は、労使が合意すれば外形上はできる。だが、働く個人一人ひとりの意識改革は、制度の修正よりも時間がかかる可能性があるというのだ。

 背景には、人生の節目節目で、「何を学びたいかや、何を自己実現したいかといった“What”を軸にした『自己決断』を十分にしてきていない」(中原教授)という問題がある。行きたい大学や学部は偏差値で選び、就職先は大会社かどうかといった“社格”を重視する。ひとたび就職したら、「新卒ガチャ」という言葉まで生まれたように、配属先はランダムに入手できるアイテムが決まるゲームの「ガチャ」のように、自分の意志と関係なく決まり、“当たりはずれ”に一喜一憂する。その状況は「人事異動」という仕組みの下、会社人生を通じて大きく変わることなく、会社都合で自分のキャリアを決められていく。

 最近、多くの会社が50歳前後の社員を対象にキャリア研修を実施するようになっている。管理職のポストから外れる役職定年やその先の定年を見据えて、自分自身のキャリアの再考を促すのが狙いだ。早期退職で転職をするのか、会社に残る場合はどのような形で貢献するのか、自己決断を迫るわけだが、それまで自分のキャリア形成を会社に委ねてきた社員の戸惑いは大きい。

 法政大学キャリアデザイン学部の田中研之輔教授は、「長年、同じ組織にいると抑圧され、『自分はこれくらいしかできない』と可能性を自ら捨ててしまう傾向にある。まるで『鵜飼(うかい)の鵜』だ。自由になれるのに、いつまでも紐(ひも)がつながっていると思ってしまう。組織の中で培ってきた資産が、社外では生かせないと思い込まされている。会社の名刺や肩書なんて、一時的な借り物にすぎなかったと自覚するために、まずはある種の『解毒』が必要だ」と話す。

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 『解毒』の1つとして、多くの識者が有効だと指摘するのが「越境学習」だ。できるだけ早い時期から、社会人向けの大学で学ぶなど、社外での「学び」に時間を割くことである。最近では副業を認める会社も増えてきており、副業も「学び」の現実的な手段になりつつある。田中教授は、「会社の名刺や肩書なんて、一時的な借り物にすぎなかったと自覚するために、とにかく社外に出ることが大切」と言う。

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